仕事をどうするか――。

 働く世代の人が突然、がんと診断されて悩む大きな問題の一つです。

 がん治療と仕事の両立については、多くの考えるべきことがあって、とても複雑な問題です。今回はまず、多くの人に知ってもらいたい大切なことを一つだけお伝えしたいと思います。

 「がんと診断されても、すぐに仕事を辞めてはいけません」

 それはなぜなのか、解説していきましょう。

告知直後に仕事を辞めてしまうがん患者さん

 がん患者さんの約3人に1人が65歳未満の就労可能年齢で発症しています(国立がん研究センター「平成30(2018)年 全国がん登録罹患数・率報告)。仕事を持っている人が、がん治療を開始するのは決して珍しいことではないのです。

 患者さんの多くは、診断を受けた直後、がん治療について詳しい情報を知りません。何となくドラマなどのイメージで、「ものすごく大変で、もう働くのは無理だ」と勝手に判断してしまう方もいらっしゃいます。

 国立がん研究センターがん対策情報センターの「平成30年度患者体験調査報告書」によると、がんと診断を受けて治療のために退職・廃業した人は就労者の19.8%で、そのうち、初期治療が始まるまでに退職・廃業した人が56.8%を占めます。実際、がんを告知された次の診察で「治療に専念するために仕事を辞めてきました」と患者さんに言われて、担当医が驚くケースも少なくないようです。

まずは決断を延期する

 仕事を辞めてしまうと、治療費や生活費、再就職についてなど新たな不安や悩みが引き起こされます。治療初期に適切な判断を下すのは難しいので、まずは有給休暇、休職や病欠などを利用して、仕事を継続するかどうかの判断を先延ばしすべきです。

 がんと診断されると、治療がスタートします。がんの種類により治療内容は変わりますが、多くの場合は初期治療がもっとも大変です。…

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がん研究者/アラバマ大学バーミンハム校助教授

筑波大学医学専門学群卒。卒業後は脳神経外科医として、主に悪性脳腫瘍の治療に従事。患者と向き合う日々の中で、現行治療の限界に直面し、患者を救える新薬開発をしたいとがん研究者に転向。現在は米国で研究を続ける。近年、日本で不正確ながん情報が広がっている現状を危惧して、がんを正しく理解してもらおうと、情報発信活動も積極的に行っている。著書に「世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療」(ダイヤモンド社、勝俣範之氏・津川友介氏と共著)。Twitterアカウントは @SatoruO (フォロワー4万5千人)。