地域で暮らし続ける~日本とデンマークの現場から

世界から見た日本の福祉の現状と「制度のはざま」

銭本隆行・日本医療大学認知症研究所研究員
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 しばらくデンマークの話が続きましたが、今回は舞台を国内に移しましょう。今回は「地域で暮らし続ける」ために必要な社会システムの中で、日本の福祉が世界的にどういう水準にあるのか。そして、その中で生じている「制度のはざま」問題についてお話ししたいと思います。あらかじめ“少々堅い内容”とお伝えしておきますね。

福祉レジームとは

 「福祉レジーム」という言葉を聞いたことがありますか? 福祉レジームとは「福祉国家レジーム(体制)」の短縮形です。そう言ってもよく分からないかもしれません。「福祉国家」とは、社会保障制度の整備や福祉の充実を目指す国家のことで、そうした国家を対象に議論するときに使われる言葉です。さらに、「福祉を提供する主要な単位の組み合わせ」という意味もあり、「福祉レジーム」は「福祉国家」の上位概念であるともいえます。

 福祉レジームに基づいて福祉国家を分類したのが、デンマーク人の社会政策学者、エスピン・アンデルセンです。アンデルセンの分類は、「自由主義レジーム」「保守主義レジーム」「社会民主主義レジーム」――という3類型でした。それぞれの特徴と該当する主な国や地域は以下の通りです。

自由主義レジーム=個人や家族が労働市場への参加の有無にかかわらず社会的に認められた一定水準の生活を維持できるかという指標の寄与が最も低く、問題解決における市場の役割が大きい。米国。

保守主義レジーム=自由主義と社会民主主義の中間に位置し、家族や職域の役割が大きい。ドイツ。

社会民主主義レジーム=労働にかかわらず福祉サービスを受けられるという指標の寄与が最も高く、国家の役割が大きい。北欧諸国。

日本の立ち位置は

 アンデルセンの論に対してはさまざまな批判もありますが、レジームによって特徴的なことも見えてきます。国民が社会保障に対して負担している割合を示す国民負担率はレジームによって異なり、2018年の国民負担率は、社会民主主義レジームに属する北欧諸国のデンマークは63.0%と高負担であり、保守主義レジームのドイツは54.9%、自由主義レジームの米国は31.8%です。レジームの違いによって負担率は大きく異なります。

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銭本隆行

日本医療大学認知症研究所研究員

ぜにもと・たかゆき 1968年広島市生まれ、福岡市育ち。51歳。早稲田大学政治経済学部在学中にヨーロッパを放浪。そのときにデンマークと出会う。大学卒業後、時事通信社、産経新聞社で、11年間の記者生活を送る。2006年にデンマークへ渡り、デンマーク独自の学校制度「国民高等学校」であるノアフュンス・ホイスコーレの短期研修部門「日欧文化交流学院」の学院長を務めた。全寮制の同校で知的障害者のデンマーク人らと共に暮らし、日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、デンマークと日本との交流を行ってきた。2010年にオーデンセペダゴー大学で教鞭を執り、2013年にはデンマークの認知症コーディネーター教育を受けた。  2015年末に日本に帰国し、2016年3月に名古屋市の日本福祉大通信制大学院で認知症ケアシステムに関する修士号を取得し、同年、福岡市の精神障害者の生活訓練事業所の設立・運営に携わる。現在は札幌市の日本医療大学認知症研究所と名古屋市の日本福祉大学大学院博士後期課程に在籍しながら地域包括ケアシステムに関する研究を進めている。ノーマライゼーション理念の提唱者であるデンマーク人の故N.E.バンクミケルセンにちなむN.E.バンクミケルセン記念財団理事も務める。