「口とお尻は、最後の砦(とりで)」……。

 そんな言葉が浮かんできました。友人とお互いの近況をメールでやり取りしていたときのことです。連載コラムで「口腔(こうくう)ケア」について書いたと伝えると、少し前にお母さんを亡くした彼女から、こんな返信がありました。

 「母は人の出入りをひどく嫌がっていたこともあり、訪問歯科には1度しか来てもらいませんでした。きちんと口を管理していたら、最期にもっと食事を楽しめたのではないかと、よく思い出します。歯ブラシを持つこと自体は、亡くなる3、4日前までできたのですが、当然ながら、きちんと磨けていません。でも、ほかの人間が口の中をいじるということは、腎ろうやら、むくみのケアやら、お尻の清拭(せいしき)やら、体のあちこちを触られることを嫌がっていた母だけに、余計に嫌だったんでしょう。こちらも説得に気力が萎え、途方にくれていました」

 そうだよね~。よくわかる。ウチの母は、口腔ケアは嫌がらなかったけど、お尻のケアは嫌がった……。母を亡くした同士、ひとしきり、そんなメールのやりとりで盛り上がりました。

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中澤まゆみ

ノンフィクションライター

なかざわ・まゆみ 1949年長野県生まれ。雑誌編集者を経てライターに。人物インタビュー、ルポルタージュを書くかたわら、アジア、アフリカ、アメリカに取材。「ユリ―日系二世 NYハーレムに生きる」(文芸春秋)などを出版。その後、自らの介護体験を契機に医療・介護・福祉・高齢者問題にテーマを移す。全国で講演活動を続けるほか、東京都世田谷区でシンポジウムや講座を開催。住民を含めた多職種連携のケアコミュニティ「せたカフェ」主宰。近著に『おひとりさまでも最期まで在宅』『人生100年時代の医療・介護サバイバル』(いずれも築地書館)、共著『認知症に備える』(自由国民社)など。