漢方ことはじめ

「分け隔てのない医療」のメリット

津田篤太郎・NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長
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 いま、新型コロナウイルス感染症は、ようやく“第5波”が収束の兆しを見せ、全国の新規感染者数が減少を続けていますが、濃厚な医療を必要とする重症の患者さんの数はまだまだ多く、医療にかかる負荷は高止まりの状況が続いています。そして、「波」が去るころに表面化するのが死者数の増加です。首都圏を中心に、自宅療養中の死亡者が目立って増えたことが報じられています(https://mainichi.jp/articles/20210904/k00/00m/040/241000c)。

 これほど多くの方々が、入院できず十分な医療を受けられずに亡くなってしまった。その背景には、少子高齢化社会の到来を見据え、年々膨らむ社会福祉予算に歯止めをかけるため、病院の病床数削減を政府が推し進めているのが一因ではないかとする意見があります(https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210311/pol/00m/010/002000c)。

 私たち医療者は、国民皆保険制度の下、病気にかからず医療費もあまり使わない人々も納めている保険料を使って仕事をさせてもらっているので「無駄遣い」は許されないのですが、何が無駄で何が無駄ではないかの判断は、そんなに簡単なものではないと思うのです。

 たとえば、常に入院病床が100%埋まっていて、毎日入院してくる人と退院する人の人数がぴったり同じ、という病院があったとします。一見とても「効率的」で「無駄がない」ように見えますが、こうした病院は得てして急に具合が悪くなった患者さんを受け入れる余裕がありません。それどころか、予約して入院をしようとしても、何カ月も先になってしまうかもしれません。そうなるとその間に病気が悪くなって、よりコストのかかる治療法を選択せざるを得なくなることも考えられます。

 では、一定数のベッドが空くように、稼働率を下げておくのがよいでしょうか。そんなことをすれば、病院は慢性的に赤字に悩まされます。なぜならベッドの稼働率を下げても100%の患者を受け入れられる体制は維持していく必要があり、人件費などの支出を減らせないからです。

 今回のパンデミック(世界的大流行)では新型コロナにかかった患者さんと、それ以外…

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津田篤太郎

NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長

1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、聖路加国際病院Immuno-Rheumatology Centerを経て、現在、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。