愛犬家が多いとされるフランス。しかし、犬を巡る思わぬ事故や危険が頻発しています。現地で暮らすライター、竹内真里さんも怖い思いをした一人です。犬との関係は、一歩誤ると新型コロナウイルスのような感染症の温床にもなります。竹内さんが、現地での経験から警鐘を鳴らします。
「欧米では、犬も社会の一員として認められている」。そんな話を聞いたことはないだろうか。パリを訪れたことがある人は、カフェのテーブルの下で飼い主らの食事が終わるのをおとなしく待つ犬たちや、周囲にさほど気を取られる様子もなく、飼い主の横を歩く犬の姿を見たことがあるだろう。確かにそんな立派な犬と飼い主もいるが、日常では、防げるはずの事故も起きているのが現実だ。今回は、愛犬家が多いといわれるフランスにおける、飼い主の責任と他者への思いやり、主に犬が原因となる狂犬病について考えてみる。
犬連れOKの場が多いフランス
私は初めてフランスに来た時、パン屋に犬がいることに驚いた。お客の犬ではなく、店のおばさんの犬だ。おばさんは時折その犬をなでて、素手でパンをつかみ、クシャクシャのお札や硬貨の受け渡しをしていた。屋内のマルシェや郵便局、パリのデパート内にも犬連れで入っていく人がいて、当初はこんなところにも犬がいる、といちいち驚いていたものだ。
食料品を扱うスーパーマーケットなどは、原則的に盲導犬や介助犬以外は出入り禁止で入り口に犬禁止マークが張られているのだが、店主によって入れる店はある。公共の乗り物は、会社の規則によるが、ケージやバッグに入れたり、口輪をつけたりして一緒に乗れる。リヨン市街を走るバスでは、口輪をすれば中型、大型犬も乗れる。このように日本に比べると介助犬、盲導犬ではない「ペットの犬」が入れる公共の場がたくさんある利点がある。しかし、その分、問われるのが飼い主の責任感と他者への配慮だ。
身勝手な飼い主が引き起こす事故
「森を散歩中に猟犬に襲われ死亡」「飼い犬に襲われ死亡」など、日仏問わず不幸な事件は大きく報道されるが、日常でも危ない状況に出くわすことがある。
ドッグランなど許可された場所以外でも、犬を自由に散歩させる人は多い。公園や散策路で「犬はリードをつけて入るように」と看板があっても、守る人とそうでない人がいる。
どこからか野放しの犬が駆け寄ってくる。こちらが犬連れの場合、何も起きなければラッキーだとしか言いようがない。…
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