医療プレミア特集

無症状・軽症だった人も苦しむコロナ後遺症 早期治療が要の理由

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
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「ワクチン接種を受けて、感染対策を徹底して、コロナにかからない。それが第一の勝負です」と話す平畑光一院長。コロナ後遺症の症状がある場合は運動を控えることが重要だと訴える。
「ワクチン接種を受けて、感染対策を徹底して、コロナにかからない。それが第一の勝負です」と話す平畑光一院長。コロナ後遺症の症状がある場合は運動を控えることが重要だと訴える。

 新型コロナウイルスの新規感染者数は減りつつあるが、感染後、長期にわたって倦怠(けんたい)感、気持ちの落ち込み、頭に霧が掛かったようになる「ブレーンフォグ」など、さまざまな症状に悩まされている人が増えている。英語で「Long COVID(ロングコビッド)」や「Post COVID(ポストコビッド)」と呼ばれる「コロナ後遺症」だ。これまで後遺症疑いの患者を2800人以上診てきた「ヒラハタクリニック」(東京都渋谷区)の院長、平畑光一さん(43)は「人生が破壊されてしまう病です」と語り、コロナ後遺症外来の最大のミッションは、「筋痛性脳脊髄(せきずい)炎・慢性疲労症候群(ME/CFS)」への移行を防ぐことだ」と言い切る。【西田佐保子】

増え続ける新患、終わらぬ診療

 「インタビューは、院長の診療が終わってからでよろしいでしょうか。3時過ぎになりますが……」。当初、平畑さんへ取材を依頼すると、ヒラハタクリニックの総務担当者は申し訳なさそうに言った。「3時」とは、午後3時ではない。「午前3時」のことだった。

 「オンライン診療と合わせて毎日100人程度診ています。朝午前10時からスタートして、夜中の午前3時に僕がダウンする感じでしょうか。新患が多くて診察が終わりません。厳しい状況です」

 「長期の微熱に悩まされている」「体がだるい」。平畑さんが新型コロナ感染症の後遺症と思われる症状で苦しむ患者を診るようになったのは2020年3月だ。海外の論文を参考にしつつ、手探りで患者さんの治療をする日々が続いた。「ヒラハタクリニックでは後遺症を診てくれる」との口コミで評判が広がり、「後遺症外来」の看板を掲げたのは20年10月のことだった。

 外来スタート当初、「後遺症ビジネスだ」と他の医師から批判されることもあった。「苦しんでいる患者さんを放っておくことはできませんよね。患者さんの人生と正面から向き合う外来をしています。患者さんの話をしっかり聞いて、それぞれ薬を選び、治療方針を決めます。非常に時間がかかり、神経も使いますが、保険診療では風邪と同じ診療報酬です。後遺症外来が増えないのも、そのような要因があるのかもしれません」

 後遺症を診るようになって、すぐにオンライン診療もスタート。地方在住の人も受診できるようになった。「重度の後遺症で、動けなくなってしまう人もいます」。クリニックの近所に住んでいる患者でも通院できず、オンラインで診察するケースがあるという。

 受診者の年齢層は、当初は40代が最も多かったが、徐々に30代も増え、現在はほぼ同程度になった。20代、50代の患者もいる。ワクチン接種者はほぼいない。基本的には「働き盛りの病気」という印象だが、「情報がなく、受診できずに苦しんでいる高齢者もたくさんいるはずです」と平畑さんは気に掛ける。

 平畑さんは「さまざまな論文があるので断言はできない」と前置きしながらも、「世界保健機関(WHO)は、感染した人の10人に1人がコロナ後遺症になるとの見解を示しています。研究によって、感染者の2~87%と幅がありますが、日本で170万人以上が感染しているので、おそらく17万人以上の人に後遺症が出ている可能性があります。PCR検査をして陽性と診断されていない人を含めると、20万人に上るかもしれません」

 米ファイザー製や米モデルナ製のワクチン接種を2回受け、14日たった後に感染が判明する「ブレークスルー感染」した人も、かなりの確率でコロナ後遺症になっているという海外の報告があるという。「今後、日本でもブレークスルー感染者の後遺症が増えてくるでしょう。軽症だから大丈夫と油断している人がいますが、その後の後遺症で人生が壊れる可能性があります」

 これまで約2800人の患者を診察してきた。「コロナ後遺症そのもので亡くなった人はいません。ただ……」、と平畑さんは続けた。「後遺症によって、これまでのように働けなくなる人がいらっしゃいます。クリニックを受診した労働者1475人中588人が休職に追い込まれ、78人が失職しています。休職している人も、3カ月、半年たっても回復せず退職することになる退職予備群といえるでしょう。後遺症で仕事ができなくなる方は少なくないのです」

男性よりも女性に多い後遺症患者

 コロナ後遺症の原因についてさまざまな仮説はあるが、有力なのは「自己免疫」だと平畑さんは説明する。通常、体内に入ってきたウイルスや細菌などを攻撃する「抗体」が、自分の組織や細胞を攻撃してしまうのだ。膠原(こうげん)病など、自己の体内にできた抗体によって引き起こされる「自己免疫疾患」のような状況といえる。

 「コロナの感染により、何らかの(自己を攻撃する抗体を作り出す)スイッチが入ってしまうのかもしれません。自己免疫疾患は女性に多くみられますが、コロナ後遺症も世界的に女性は男性よりも1.4~5倍多いことがわかっています」

 コロナ後遺症の定義は定まっていない。いつから後遺症と呼ぶかについては、米疾病対策センター(CDC)や英国立医療技術評価機構(NICE)のガイドライン(※)では、「コロナに感染後4週…

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西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。