退院日の朝を迎えた養老孟司先生(右)と中川恵一さん=2020年7月9日(中川さん提供)
退院日の朝を迎えた養老孟司先生(右)と中川恵一さん=2020年7月9日(中川さん提供)

 解剖学者で、恩師の養老孟司先生との共著「養老先生、病院へ行く」(エクスナレッジ)が、発売から半年ほどで9万部のベストセラーとなりました。すでにこの欄で紹介させていただきましたが、本書は「病院嫌い」で有名な養老先生が体調不良を訴えて私の診察室を訪れ、心筋梗塞(こうそく)が発覚して緊急入院した顚末(てんまつ)を柱に、医療・老い・死などについて、2人で語り合った内容を中心にまとめたものです。

 出版社に届いた読者の声には「必要な時だけは医療に頼るが、それ以外では距離を置く養老先生の合理的な考え方に賛同します」(70代・男性)など、養老先生の生き方に共感する人が多いようです。これに対して、本紙の長寿コラム「ココロの万華鏡」も担当する精神科医の香山リカさんの書評(朝日新聞9月11日付朝刊)は、別の視点から本書を評価しています。その部分を引用してみます。

 「著者らは症状の変遷や心電図などの検査所見、入院後の治療についてもすべてオープンにしているので、まず科学よみものとしてもおもしろく読める。医療に関心がある人なら、わずかな変化から心臓疾患の存在を疑った中川医師の手腕にうなるだろう」

 これまでの書評の多くは、養老先生のユニークな人生哲学や、本書制作中に亡くなった飼い猫「まる」への深い愛情については触れられていますが、「科学よみもの」という視点に踏み込んだものは少ないようです。香山さんは次のようにも書いています。

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中川 恵一

東大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

1985年東京大医学部卒。スイス Paul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、同大医学部付属病院放射線科助手などを経て、2021年4月から同大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。同病院放射線治療部門長も兼任している。がん対策推進協議会の委員や、厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」議長、がん教育検討委員会の委員などを務めた。著書に「ドクター中川の〝がんを知る〟」(毎日新聞出版)、「がん専門医が、がんになって分かった大切なこと」(海竜社)、「知っておきたい『がん講座』 リスクを減らす行動学」(日本経済新聞出版社)などがある。