理由を探る認知症ケア

「口数が減ったのは認知症のせい」男性はなぜそう思われたのか

ペホス・認知症ケア・コミュニケーション講師
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 脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害によって起こる認知症を「血管性認知症」といいます。ある日突然、血管性認知症になり、要介護度2の認定を受けた男性。次第にあまり話さなくなり、担当のケアマネジャーは「認知症が進行したのでは?」と考えました。一方、ケアマネジャーから相談を受けた認知症ケアコミュニケーション講師のペホスさんは、男性と雑談する中で、男性がふと漏らした本音から口数が減った原因を突き止めます。いったい何があったのでしょうか? ペホスさんが男性の事例を通じて、介護現場で起こりがちな「あること」を紹介します。

釣りをしている最中に救急搬送

 Mさん(70代・男性)は、65歳で定年退職を迎えてから、趣味の釣りを楽しんだり、地域の見守りボランティア活動に参加したりして過ごしていました。そして、妻もスポーツクラブに通ったり、友人とランチに行ったりして、お互いに楽しみのある生活を送っていました。

 ところが、70歳の誕生日を迎える1カ月前、友人と釣りをしていると手がしびれだし、さおを握る手に力が入らなくなり、救急車で病院に搬送されました。搬送先の病院で「脳梗塞」と診断され、即入院することになりました。

血管性認知症で記憶力や注意力が低下

 比較的早い段階で処置ができたこともあり、なんとか一命は取り留めました。しかしながら、言語障害と右半身まひの障害を負うこととなり、Mさんは大変ショックを受けていました。

 何より言葉が不自由になったことで、Mさんは自分の思いをなかなか相手に伝えられず、イライラして大声を出したり、物に当たったりしていました。おまけに、利き手の右手も使いにくくなったため、誰から見ても気持ちが落ち込んでいる様子は明らかでした。

 しかし、入院中のリハビリの効果もあり、つえを使って廊下を歩けるようになりました。さらに左手でスプーンやフォークを使って食事が食べられるようになるなど、できることが増えてきたことで、Mさんの表情はずいぶんと和らぎました。

 当初はなかなか出てこなかった言葉も出るようになり、…

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ペホス

認知症ケア・コミュニケーション講師

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケア・コミュニケーション講師」「認知症ケア・スーパーバイザー」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。アプロクリエイト代表。