医療プレミア特集

追い詰めたのは誰? コロナ禍の保健所をカメラが捉えた

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
  • 文字
  • 印刷
宮崎監督が撮影中、最も印象に残ったのは、相手のことを考えて真剣に対応する保健師の姿だったという=宮崎信恵監督提供
宮崎監督が撮影中、最も印象に残ったのは、相手のことを考えて真剣に対応する保健師の姿だったという=宮崎信恵監督提供

 鳴りやまぬ電話、膨大な量の発生届や紙のカルテ、涙を流す保健師――。「終わりの見えない闘い」は、新型コロナウイルス感染症の拡大で対応に追われる保健所にカメラを向けたドキュメンタリー映画だ。「電話がつながらない」「何日も連絡が来ない」など非難の的になることも多い保健所だが、スクリーンには「人の命を守る」という強い正義感のもと、葛藤や苦悩を抱えつつも寸暇を惜しんで働く保健師たちの姿が映し出される。「えらいね、立派だね、と美化したくありません」。監督の宮崎信恵さん(79)はそう言い切り、「そこまで追い詰めたのは誰? 私は映画でそこを問いかけたい」と訴えた。【西田佐保子】

第3波なんて、第4、5波に比べたら夢のよう

 「保健所が大変なことになっている」

 2020年4月、宮崎監督の友人で、中野区にキャンパスがある帝京平成大学ヒューマンケア学部看護学科の工藤恵子教授からメールが届いた。「ドキュメンタリー映画を撮っている私のところに連絡があったということは、きっと何か意味がある」と思い、宮崎監督は中野区保健所に駆けつけた。当時、同保健所の所長だった向山晴子さんは、コロナ禍における現状を記録に残したいと力強く訴えたという。

 その「本気」に宮崎監督は応えた。保健所内部の撮影という厳しいハードルもクリアし、全国で1日あたりの新規陽性者が最大1605人(20年8月7日)を記録した「第2波」、7955人(21年1月8日)を記録した「第3波」を含む、20年6月24日から21年3月26日までの約10カ月間、新型コロナ対応の最前線に立つ保健所をカメラでとらえた。

 向山さんが21年4月に練馬区保健所へ異動になり、撮影を終えることになった。「本当はもっと撮りたかった」と宮崎監督は漏らした。撮影時、向山さんは週3日ほど保健所に泊まり込んで仕事をしていたという。「夜間の緊急通報があるので、ほぼ連日連夜、スマートフォン(携帯電話)に電話がかかってきて2、3回起こされたそうです」。撮影終了後、さらに感染拡大が広がった。

 「『第3波までなんて、第4、5波に比べたら夢のようだった』と話す保健師もいましたね」。鳴りやまぬ電話の中、時に不安を口にして落涙し、土日祝日、正月、朝昼夜を問わず業務に追われる保健師の姿を映画で目にすると、その「夢のよう」と評される「混沌(こんとん)」を超える日常を、とても想像できない。

保健師とは誰か?

 当初、向山さんは「保健師を育てたい」との使命感から、コロナ下の保健所を記録することを望んだそうだ。一方、保健所で電話対応に追われている人の多くが「保健師」であることや、そもそも保健師はどのような役割を担っているのかを知らない人もいる。実際、「『終わりの見えない闘い』を見て、初めて保健師という存在を認識した」といった感想が、ツイッターに投稿されたという。

 宮崎監督は、「お母さんたちは子どもの3歳児健診を受ける際に(各市区町村に設置されている)保健センターで接することはあるけれど、多くの人にとって保健師は遠い存在かもしれませんね」と話す。

 保健師は、病気の予防や健康維持のため保健指導を担う専門職で、国家資格の保健師免許と看護師免許の取得が必要とされる。2018年現在、全国で5万2955人(男性1352人、女性5万1603人)が就業しており、その多くが市区町村(2万9666人)や都道府県(1351人)、都道府県、政令指定都市、中核市などに設置されている保健所(8100人)などの行政機関に勤務している。

 都道府県によって人口当たりの保健師数に差がある。島根県は人口10 万人当たり79.3人、長野県は同77.2人、山梨県は同76.5人に対し、神奈川県は同23.5人、大阪府は同25.9人、東京は同28.4人と大都市部は少ない(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/18/)。

 保健所の業務は、日常的にも、結核・インフルエンザ・エイズなどの感染症対策、難病・精神疾患・ひきこもりなどに関する相談、食品衛生、食中毒の検査など多岐にわたっており、医師、薬剤師、獣医師など専門的技能を持つ職員とともに働く。

 保健所の数は、1990年以降減少している。94年に保健所法が地域保健法へと大幅改正され、地方への権限委譲が進んだ。3歳児健診などの母子保健事業を…

この記事は有料記事です。

残り1921文字(全文3728文字)

西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。