回復/修復に向かう表現

映画「CONVICTION(有罪)」から見える女性受刑者の世界

坂上香・ドキュメンタリー映画監督
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カナダの女性刑務所に収監中の受刑者、トリーナ(右)が刑務所の日常を撮影する光景=ドキュメンタリー映画「CONVICTION(有罪)」より(c)CONVICTION
カナダの女性刑務所に収監中の受刑者、トリーナ(右)が刑務所の日常を撮影する光景=ドキュメンタリー映画「CONVICTION(有罪)」より(c)CONVICTION

 日本国内の全ての少年院で映像作品が制作され、毎年コンペが行われているのをご存じだろうか?

 法務省が2010年に始めた「少年院映像表現コンクール」がそれで、趣旨は次のとおりだ。

 「少年院で生活している少年たちに、少年院で学び、考えたことを3分間の映像作品として表現してもらい、優秀作品を表彰することによって、少年たちの表現力と自己肯定感を高めることを目的としています」

 映像はいずれも3分間の短編作品で、全国に50ある少年院全てから1作品ずつエントリーされ、その中から入賞6作品、優秀賞3作品が選ばれる。法務省のウェブサイトや動画投稿サイト「ユーチューブ」で各年の受賞作品を見ることができる。

 映像では、保護処分中の少年らが特定されないために、顔・声・入れ墨は隠し、年齢・学年・出身地・家族構成・非行内容やその背景も伏せ、撮影場所も院内に限定される――など制約だらけだ。

 にもかかわらずというか、だからこそというか、少年たちはお面をかぶったり、背中や手など体のパーツだけで演技をしたり、人形劇や紙芝居をしたり、パラパラ漫画や黒板を使ったチョーク画アニメを作ったりと、涙ぐましいまでにその制約にチャレンジしている。

 私は数年前から審査員を務めているのだが、映像を見るたびに少年たちの想像力やポテンシャルに心が強く動かされる。と同時に、ある種の疑問やむなしさも浮上してくる。

 そのことについては後で触れることにして、今回は、カナダの女性刑務所を舞台にしたドキュメンタリー映画「CONVICTION(有罪)」(2019年、日本未公開)(https://www.youtube.com/watch?v=8iH4w3ucA0E&t=2s)を紹介したい。

女性受刑者とのコラボ映画

 主人公はカナダの女性刑務所に収監中の女性たち、ビアンカ、トリーナ、ローラ、ケイトリンの4人だ。彼女たちは、罪を犯さずに生きるための社会的環境の改善を要求する「信念を持った」女性たちでもある。映画のタイトル「CONVICTION」は「有罪」という意味に加えて「信念」というもう一つの意味も含んでいる。

 ただし、最初から彼女たちに信念があったわけではない。自己評価が低く優柔不断だった彼女らが、さまざまな出会いや表現活動を通して、変わっていく様子が映画には描かれている。

 カメラは4年間という長期にわたり、アート・写真・詩・ラップ・映像制作など刑務所内で行われるワークショップ、出所日の受刑者と家族、出所後にプレゼントされたカメラで撮影する元受刑者、再び問題を起こして逮捕される元受刑者、公判、再度収監される様子――など、さまざまな現実を追っていく。

 欧米には、刑務所を舞台にした「刑務所ジャンル」と呼ばれる映画やドラマが古くから存在する。暴力や性を強調したセンセーショナルな作品が多い中、刑務所を批判する作品も最近は見かけるようになってきた。ただし、「CONVICTION」は女性受刑者という内部の声(視線)を中心に据えている。

 監督を務める3人の女性たち(ナンス・アッカーマン、アリエラ・パルケ、テレサ・マシネス)は、映画の公式サイトで、刑務所という制度に対する問題意識を示すと同時に、その制度を維持してきたのは自分たち市民であるという明確な視点を打ち出している。

 また、定額制のオンライン上映サイト「Documentary Channel(ドキュメンタリーチャンネル)」のインタビューにはこう答えている。

 「作りたかったのは彼女たち(女性受刑者)についての映画ではありません。彼女たちと一緒に映画を作りたかったのです」

 刑務所の現状を変えるには当事者の声が必要だと監督らは感じ、女性受刑者と共にこの映画を制作したところが、他の「刑務所ジャンル」と大きく異なる点である。また、それを許した刑務所側にも脱帽する。

女性受刑者とは誰か?

 カナダでは女性刑務所の収容人口が急増している。女性受刑者の約70%に性的虐待の被…

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坂上香

ドキュメンタリー映画監督

1965年大阪府生まれ。高校卒業と同時に渡米留学し、ピッツバーグ大学大学院(国際関係学)在学中に南米を放浪。92年から約10年間TVディレクターを務めた後、津田塾大学等で専任教員に。2012年に独立し、劇場公開向けの映画制作や上映活動を行うかたわらNPO out of frameの代表として、矯正施設等で表現系のワークショップを行ってきた。国内の刑務所を舞台にした映画「プリズン・サークル」(19年)が公開2年目に突入。劇場公開作品に「ライファーズ 終身刑を超えて」(04年)、「トークバック 沈黙を破る女たち」(14年)がある。著書に「ライファーズ 罪と向きあう」(12年、みすず書房)など。