医療プレミア特集

西浦教授が人生で初めて絶望した日 8割おじさんに聞くコロナの今後/上

永山悦子・論説委員
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「今年の夏、日本人をやめようかと思った瞬間があった」と打ち明ける西浦博・京都大教授=京都市左京区の京都大で2021年10月20日、永山悦子撮影
「今年の夏、日本人をやめようかと思った瞬間があった」と打ち明ける西浦博・京都大教授=京都市左京区の京都大で2021年10月20日、永山悦子撮影

 新型コロナウイルス感染症の第5波が急速に収まり、日常生活が戻りつつある。私たちはコロナと共存する「ウィズコロナ」のフェーズに移ったかにみえる。「8割おじさん」こと西浦博・京都大教授(感染症疫学)を訪ねると、第5波のさなかに「人生初めての絶望感を味わい、日本人をやめようかと思った」と明かした。何が起きていたのか。新型コロナのパンデミック(世界的大流行)が始まって1年8カ月。感染状況が少し落ち着いた今、西浦さんの思いを2回にわたって紹介する。

第6波は予想より早い恐れ

 ――第5波の緊急事態宣言が9月末で解除され、10月下旬には東京などで実施されてきた飲食店への時短営業要請などもなくなりました。9月までと10月以降で、国内の新型コロナの感染リスクは変わったといえるのでしょうか。

 ◆劇的に世界が変わったとは考えていません。日本のワクチンの接種率は非常に高くて誇らしいものですが、現状では人と人の接触が増えれば、感染者は増えます。接触次第で第6波は皆さんが思っているよりも早く起きる可能性があります。既に、北海道など寒い地方(暖房を使うため室内で接触しやすい)で感染者数の一過性の上昇が見られてきました。

8月中旬に「おやっ」と思った

 ――第5波の感染者数が急激に減り、ワクチン接種が広がっていることもあり、「もう日常生活に戻れるのではないか」と考えている人もいると思います。

 ◆感染者数の急減については、大きく二つの要素があると考えられます。一つはワクチンの効果です。(国内で接種が進められている)メッセンジャーRNAワクチンは高い効果が期待できます。もう一つは、国民一人一人の「リスク認識」が高まったことです。宣言が出され、病床の逼迫(ひっぱく)が報じられることで、国民の人との接触の「質」が大きく変わったのだと思います。ワクチンの接種率が高まり、感染者が急増したことで自然に免疫を獲得した人も増える中、人々がそれぞれ一定程度の接触を減らしたことが、一気に感染者数を下げたと考えられます。

 これだけ長く流行と付き合うと、感染リスクの高い行動がどういうものか理解されています。リスク認識が高まれば、人々は感染リスクの高い行動を選択的に避けるようになります。たとえば、飲み会をやめようとか、人ごみや屋内ではマスクをしっかりつけようとか。

 データを見ていて、8月中旬くらいに「おやっ」と思った瞬間がありました。指数関数的に増えていた感染確認数の伸びが止まったように見えたのです。8月中旬に報告される感染者数は7月下旬ごろに感染した人たちのものです。そのころの生産年齢人口のワクチン接種率は、感染を下火にするには十分ではありません。いろいろ分析した結果、流行の状況が悪くなり、東京オリンピックの開幕前の時期に、皆さんがハイリスクの行動をそぎ落とす暮らし方を選び、それでグッと下がったとみられることが分かりました。

日本人をやめようかとも思った

 ――何らかの対策が効いたというわけではないのですね。

 ◆はい。実は、皆さんが感染の急拡大に恐怖を感じられていた7月後半の私は、人生で初めて日本という国に絶望していました。国…

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永山悦子

論説委員

1991年入社。和歌山支局、前橋支局、科学環境部、オピニオングループ、医療プレミア編集長など経て、2022年4月から論説委員。2010年に小惑星探査機「はやぶさ」の地球帰還をオーストラリアの砂漠で取材し、はやぶさ2も計画段階から追いかける。ツイッターは、はやぶさ毎日(@mai_hayabusa)。好きなものは、旅と自然と山歩きとベラスケス。お酒はそこそこ。