
高齢社会を迎える日本で、大企業などで中高年をターゲットとした早期退職の勧奨が進んでいます。しかし、突然、生きがいや居場所を失う中高年は「ひきこもり」となってしまう恐れがあるといいます。「ロストジェネレーション」と呼ばれる就職氷河期世代ならぬ、「第2のロスジェネ」になるのではないか。野澤和弘さんは、そんな心配をしています。
大企業で進む中高年の人員削減
どんな時代に生まれるか、どのような経済状況の時に社会に出るのかを自分で選ぶことはできない。
バブル崩壊後、正社員での就職ができずに派遣社員やフリーターになることを余儀なくされた人々のことを「就職氷河期世代(ロストジェネレーション)」と呼ぶ。その後も不安定な生活をしている人が少なくない。
たまたま恵まれた時代に大学を卒業して人気企業に就職できた世代もあれば、そうではない世代もある。個人の努力や才能をのみ込む「時代の波」というものを思わざるを得ない。
ところが、大企業で安定した仕事に就いたはずの人々にも荒波が押し寄せている。多くの大企業が50代以降の中高年を中心に人材削減を進めているのだ。新型コロナウイルス禍によって業績が悪化したせいばかりではない。コロナの前から中高年社員の整理に乗り出している企業は多い。
定年までの凪(なぎ)のような会社員生活を描いていた人にとっては驚天動地の心境だろう。前向きに人生の再出発へと気持ちを切り替えられればいいが、そのまま今の会社に残りたいと思っている人が多いとの意識調査がある。退職が引き金になって生きがいを失い、ひきこもる人も増えている。
人生100年時代を迎え、膨大な「第2のロストジェネレーション」が生まれかねない。
ANAもパナソニックもJTもホンダも
国内のコロナ第5波のピークはとうに越え感染者が急減していたさなかの今年10月末、ANAホールディングスが2025年度末までに約9000人削減する計画を発表した。大半が国内従業員で、全日本空輸などANAブランドの航空事業に携わる人の2割超に当たる。これだけ大規模な人員削減に踏み切ったのは、コロナ禍で旅客需要の低迷が長引き、早期の黒字回復を断念したためだ。リストラの対象は全日空の地上職や客室乗務員だ。デジタル技術を活用した省力化を進め、サービス水準は維持する方針という。
今年に入ってから、同じようなニュースが相次いでいる。…
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植草学園大学教授/毎日新聞客員編集委員
のざわ・かずひろ 1983年早稲田大学法学部卒業、毎日新聞社入社。東京本社社 会部で、いじめ、ひきこもり、児童虐待、障害者虐待などに取り組む。夕刊編集 部長、論説委員などを歴任。現在は一般社団法人スローコミュニケーション代表 として「わかりやすい文章 分かち合う文化」をめざし、障害者や外国人にやさ しい日本語の研究と普及に努める。東京大学「障害者のリアルに迫るゼミ」顧問 (非常勤講師)、上智大学非常勤講師、社会保障審議会障害者部会委員、内閣府 障害者政策委員会委員なども。著書に「スローコミュニケーション」(スローコ ミュニケーション出版)、「障害者のリアル×東大生のリアル」「なんとなくは、 生きられない。」「条例のある街」(ぶどう社)、「あの夜、君が泣いたわけ」 (中央法規)、「わかりやすさの本質」(NHK出版)など。