大正デモクラシーから、満州事変、日中戦争、そして太平洋戦争を経て、平和憲法と戦争放棄へ――。戦前から戦後にかけての我が国の姿は、ジェットコースターのように大きく振れました。ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンを巡る問題も、揺れやすい日本人の心情によるものかもしれません。

 子宮頸(けい)がんの発症原因のほとんど100%は、性交渉に伴うこのウイルスの感染です。このウイルスは日本女性の7~8割が感染経験を持つごくありふれたものです。感染してもほとんどが2年以内に自然に消失しますが、ごくまれに感染が持続し、前がん病変(がんになる前の状態)を経て、15~20年という長い時間をかけて子宮頸がんになります。

 しかし、このウイルスの感染がなければ、子宮頸がんを発症することはほぼありません。性経験のない女性にはできないタイプのがんと言えます。

 子宮頸がんは年間約1万人に発症し、約3000人が死亡しています。「セックスデビュー」の若年化やオープンな性行動などに伴って、子宮頸がんが若い世代に急増しています。1970年代、ピークは60~70歳代でしたが、80年代には40~50歳代にシフトし、現在は30歳代にもっとも多く発症します。20~30歳代の罹患(りかん)率は過去20年間で2~4倍に達します。

 子宮頸部(膣=ちつ=につながる部分)へのHPVの感染は、性交渉に伴うものですから、パートナーの数が多いほど、子宮頸がんのリスクが高まります。逆に、…

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東大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授

1985年東京大医学部卒。スイス Paul Sherrer Instituteへ客員研究員として留学後、同大医学部付属病院放射線科助手などを経て、2021年4月から同大大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。同病院放射線治療部門長も兼任している。がん対策推進協議会の委員や、厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」議長、がん教育検討委員会の委員などを務めた。著書に「ドクター中川の〝がんを知る〟」(毎日新聞出版)、「がん専門医が、がんになって分かった大切なこと」(海竜社)、「知っておきたい『がん講座』 リスクを減らす行動学」(日本経済新聞出版社)などがある。