
おいしいものを食べると幸せな気持ちになり、元気になれるものです。しかし、高齢者で年齢が高くなればなるほど「軟らかいものしか食べられない」という悩みを抱えています。加齢に伴って口の中の機能が低下すると、よくかまずに丸のみするようになり、むせると心にも影響を及ぼします。特に、認知症の高齢者は新型コロナウイルス禍による外出制限もあり、歯科医療から遠ざかってしまいました。心身の健康を保つためには、どのようなことが必要なのでしょうか。東京都健康長寿医療センターの枝広あや子研究員が、はつらつとした高齢期を送るために今から始めるべきことを解説します。
「おいしいものが食べたい」という共通した願い
「おいしいものが食べたいな」
こうしたささやかな願いは、高齢者だけでなく、子どもでも若者でも、あらゆる世代の願いです。それはもちろん、認知症になっても同じでしょう。おいしいものを食べると幸せで元気になるのは、どんな人も一緒です。
わが国は世界一の長寿国になりました。内閣府の2014年度高齢者の日常生活に関する意識調査によると、「普段の楽しみ」を問う設問で「食事、飲食」は、調査を重ねるごとに割合が高くなっているという結果でした。
一方、食生活での気になることを聞いたところ、「軟らかいもの以外は食べられない」という悩みが、高齢になるほど比率が高くなっていました。おいしいものを食べることが喜びであるにもかかわらず、軟らかいもの以外は食べられないというのは、少し残念でしょうね。いつだって健康的でおいしい食生活がしたいと思うのは人情でしょう。
私たちの人生は、高齢期になってからも長く続きます。「高齢期は生活に不具合をきたすような老年症候群、危険な老化のサインに早く気付いて対処をしましょう」と言われます。老化のサインとは、…
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