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5~11歳の子どもへのワクチンは社会のため? 我が子が接種した医師が思うこと

鈴木敬子・毎日新聞 医療プレミア編集部
 
 

 米・ボストン在住の小児精神科医でハーバード大助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長の内田舞医師は今年1月、世界でもいち早く妊娠中に新型コロナウイルスワクチンを接種し、その経験や接種の意義を発信してきた。当時は、妊婦への接種について専門家の間でさまざまな意見があった。国内で検討されている5~11歳の子どもへのワクチン接種についても、専門家の議論が続いている。この年代へのワクチン接種について、どのように考えればいいのか。6歳の長男が2回のワクチン接種を受けた内田医師に、米国の状況を踏まえ、小児精神科医として、対象年齢の子をもつ3児の母としての視点から解説してもらった。

子どもも感染するし重症化もする

――そもそも子どもは感染しても重症化しにくいのに、接種する必要があるのかという声もあります。

 ◆前回も指摘しましたが、「感染しにくい」ことと「しない」ことは別です。感染対策を徹底した日本では、幸い5~11歳の子どもの死亡例は今のところありませんが、アメリカでは感染対策が十分ではなかった結果、170人以上が亡くなっており、アメリカのこの年代の死因の第8位が新型コロナ感染症となっています。子どもが大人たちの移動や判断によって感染症にかかり、亡くなるのはとても悲しいことです。

 命に別条はなくても、集中治療室での治療や人工呼吸器が必要になったお子さん、感染後にさまざまな臓器が炎症を起こす多系統炎症性症候群(MIS-C)という状況になったお子さんも多くいらっしゃいました。ですから、どんなに感染しにくい、重症化しにくいといっても、自分の子どもにはかかってほしくないと思います。感染、発症、重症化予防のために子どもたちにワクチン接種させてあげたいと思いました。

 また、感染する人がいればいるほど変異ウイルスが生まれやすくなるので、感染者数をなるべく低い値にしなければ世界的大流行(パンデミック)は終わりません。新たな変異ウイルス「オミクロン」が出てきたことで「今後もどんな変異が出てくるのか分からない」と誰もが思ったのではないでしょうか。

 デルタが出てくる前は、若い人や子育て世代の人は感染してもそれほど重症化しないといわれていました。しかし、デルタが流行すると、20代から40~50代にも重症化する人が増えました。

 日本では今年8月、千葉県柏市で新型コロナ感染症が重症化した妊婦さんの搬送先が見つからず、自宅で早産してしまい、赤ちゃんが亡くなるという、胸が締め付けられるような悲しい出来事も起きました。この出来事はいまだに忘れられません。

 私は三男を妊娠中だった今年1月にワクチンを接種し、その経験や意義を世界に向けて発信してきました。妊婦は感染した場合の重症化リスクが高く、米疾病対策センター(CDC)も当初から接種を推奨するトーンで情報発信をしていました。妊婦の場合、臨床データが少ないから強く推奨できないという意見は分かりますが、その中でも分かっていることは当時もたくさんありました。分かっていることの中から予想できることもありますし、それらすべてを考慮し、私は接種した方がいいと判断しました。

 しかし、日本では厚生労働省や日本産科婦人科学会などからの提言は、妊娠中の接種に非常に消極的でした。少しずつ変わっていきましたが、社会の認識は残念ながら最初の提言の印象を引きずったままだったと感じました。しかし、千葉県の悲しいケースが起きるやいなや、妊婦さんの接種が自治体で優先されるようになりました。突然方針が変わっても、心の準備ができていないという妊婦さんもたくさんいました。私は、日本でも、もっと早くから妊婦のワクチン接種について、科学的データに基づいた提言や報道がされるべきだったと考えます。

 子どもでは、…

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毎日新聞 医療プレミア編集部

すずき・けいこ 1984年茨城県生まれ。法政大卒。2007年毎日新聞社入社。岐阜支局、水戸支局、横浜支局などを経て、15年5月から医療プレミア編集部。