理由を探る認知症ケア フォロー

食後に“困り顔”でうろうろ歩き回る高齢女性 いったい何に困っていたのか

ペホス・認知症ケアアドバイザー
 
 

 夫と死別し、有料老人ホームで暮らし始めたアルツハイマー型認知症の90代女性。ホームでの生活にも慣れてきたころ、夕飯後や就寝前の時間帯に、うろうろと歩き回るようになりました。職員から相談を受けた認知症ケアアドバイザーのペホスさんは、「女性が困り顔をしている」という職員たちの証言に着目します。いったい女性は何に困っていたのでしょうか? そして、解決に導いた「あるもの」とは――。ペホスさんが職員や家族へのヒアリングを通して、どのように考え、女性の行動の理由を突き止めたのかつづります。

不自由のない暮らしをしてきたCさん

 Cさん(90代・女性)は、生まれ育った地元の酒蔵の御曹司とお見合い結婚をし、2人の娘を授かり、育ててきました。会社はとても繁盛していたため、子どもたちを海外に留学させるなど、お金で不自由することのない人生を送ってきました。

 そんなCさんも寄る年波には勝てず、75歳を過ぎた頃からアルツハイマー型認知症の症状が表れてきました。娘との約束の日を間違えたり、薬を飲み忘れることが増えたりしたため、長女が心配になって一緒に受診したところ、軽度のアルツハイマー型認知症と診断されました。

 一緒に暮らしていた夫は、Cさんの症状は年相応の物忘れだと思っていたので、診断名を聞いた時にとても驚いていました。しかし、夫は今まで通りCさんに寄り添って自宅で暮らしていくと決め、10年間にわたる在宅介護をやり通し、最後は心不全で帰らぬ人となりました。

一人暮らしへの不安

 別居している娘さんたちは、父親が急逝したことで大きな不安を抱えることになりました。

 夫と二人暮らしを続けてきたCさんですが、夫の声かけや気配りがあったからこそ続けてこられた在宅生活でしたので、娘さんたちはCさんが一人で暮らすのは無理だと思っていました。Cさん自身も…

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認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら