医療プレミア特集

ろう俳優の起用は「必然だった」 映画「コーダ あいのうた」シアン・ヘダー監督インタビュー

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
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フランス映画「エール!」のリメークでもある「コーダ あいのうた」。本作で数多くの映画賞にノミネートされた才能あふれるろう俳優に出会える(C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS
フランス映画「エール!」のリメークでもある「コーダ あいのうた」。本作で数多くの映画賞にノミネートされた才能あふれるろう俳優に出会える(C) 2020 VENDOME PICTURES LLC, PATHE FILMS

 米俳優のロバート・レッドフォードが創設したインディペンデント映画の祭典として名高い米国の「サンダンス映画祭」で、史上最多の4冠を受賞した話題の映画がある。それが「コーダ あいのうた」(2021年)だ。日本では、21日から公開される。耳が聞こえない親を持つ健聴の子ども「CODA(Children of Deaf Adults)」である女子校生と家族の成長物語で、聴覚に障害がある役はろう俳優が演じている。毎日新聞のインタビューにシアン・ヘダー監督(44)は「この作品を通して、ろう者が健聴者と同じように、悩みや葛藤を抱えて生きていることを感じてもらいたい」と語った。【西田佐保子】

ステレオタイプな障害者を描きたくなかった

 米マサチューセッツ州の漁村で、明るくユニークな両親と兄と4人で暮らす女子高生、ルビー・ロッシは、家族の中で唯一耳が聞こえる。家業である漁業を手伝い、幼い頃から耳が聞こえる人との「通訳」として家族を支えてきた。新学期、ルビーはひそかに思いを寄せるクラスメートと同じ合唱団に入る。彼女の歌声を聞いた顧問の音楽教師はその才能に気づき、名門音楽大学の受験を勧める。家族のために地元に残るか、自分の夢を追いかけるか、ルビーは悩むが……。

 「ロッシ一家と同じように、家族の仲がとても良かった」というヘダー監督は、両親がともに移民である自身の経験が映画に反映されていると話す。

 「移民の子どもとして、二つの文化の間に自分がいました。米国で生まれた子どもである私と両親には文化的な違いがある。彼らを理解できないと感じてしまうこともありました」

 タイトルの「Coda」には、音楽用語の「楽曲の終わり」という意味もあるが、映画では「共依存(codependency=自分と特定の相手が互いに過剰に依存し合い、その関係性に強い影響を受けている状態)」にあった家族の関係性が変容していく過程も描かれる。

 「確かに、共依存という言葉(英単語)の響きと『CODA』は近いですね」とうなずき、「文化的、言語的に、周りの人たちとわかり合えないからこそ、必然的に家族のつながりが強くなるという点においても、移民とろう者との共通点を感じます」と説明した。

 フィクション映画に登場する障害者たちの多くは、真面目で、従順で、おとなしく、不幸を耐え忍ぶ。「ものを言う」キャラクターは少ない。健常者に都合の良い「ステレオタイプ」を、現実社会だけでなく映画でも押しつけているようにも思える。一方、ロッシ一家は明るく、ジョークを飛ばし合い、性についてオープンに話す。時に不当な扱いを受ければ声を上げる。

 「そもそも障害者が中心人物として描かれる映画は少ないですね。登場するとしても、哀れむ対象として、不幸で、健常者とは異なる高貴な人物として描写されがちです。この作品では、ろう者の悩みや葛藤は、必ずしも耳が聞こえないことにリンクしていません。短所も含め、立体的なキャラクターを構築しました。障害の有無にかかわらず、共感できる一人の人物として描いています」(ヘダー監督)

聴覚障害のある役柄は、ろう者の俳優が演じるべきだ

 ハリウッドでは、白人以外の役柄を白人俳優が演じる「ホワイトウオッシング(whitewashing)」や、性的マイノリティーであるLGBTQのキャラクターを異性愛者の俳優に配役する「ストレートウオッシング(Straightwashing)」などが、近年問題視されている。

 「コーダ あいのうた」では、ろう者役には聴覚障害のある役者がキャスティングされ、素晴らしい演技を見せる。アメリカ式の手話(ASL)の表現の豊かさにも驚かされるが、映画で存在を知られる機会の少ない、才能あふれるろう者の俳優に表現の機会を与えた意味においてもこの映画の果たした役割は大きい。

 「聴覚障害者の役者に演じてもらうこと以外、考えていませんでした。黒…

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西田佐保子

毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。