理由を探る認知症ケア

「家に帰ります」老健での生活に落ち着きを見せた女性がそう言い出したわけ

ペホス・認知症ケアアドバイザー
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 地域の人たちとのつながりを大切にし、自宅に友人を招いてお茶会を楽しんでいた90代の女性のKさん。ある日、庭の手入れをしようとして転倒し、骨折してしまいます。退院後は介護老人保健施設(老健)に入所し、当初は穏やかに過ごしていましたが、そのうち自宅に帰りたいと訴えるようになりました。実は、Kさんには自宅に帰りたがる明確な理由があったのです。それは何だったのでしょうか? それを施設で再現してみると思わぬ変化も生まれました。認知症ケアアドバイザーのペホスさんが解説します。

嫁いできて70年、専業主婦のKさん

 Kさん(90代・女性)は70年前、お見合い相手が住む都市部に嫁いできました。一人で文化も違う慣れない土地に来て、最初はいろいろと苦労もあったようです。それでも、2人の子どもを出産し、育児・家事に精を出す日々を送ってこられたようです。

 子どもたちと一緒に地元のお祭り行事などにも参加する機会が増え、徐々に近所の人との親交も深まりました。地域の婦人会で活動するようになり、Kさんは「専業主婦でも家にこもりきりにならずに済んだのは、子どものおかげ」と口癖のように言っていました。

40代後半でおばあちゃんに

 Kさんの人生には、いくつかのステージがありました。親の庇護(ひご)の下にあった子ども時代、成人を迎えて働いていた独身時代、その後、結婚をして子どもが生まれた子育て時代。そして、子育てが終わり、まだまだ人生これからという年齢の40代後半にして“おばあちゃん時代”に突入しました。

 パートの仕事をしながら婦人会活動にも参加し、充実した日々を送っていたところ、子どもたちが結婚して孫が生まれたのです。周りの人から「若いおばあちゃんだね」と言われることがとてもうれしかったようです。

孫の成人式も見届けて

 その後、3人目の孫の成人式を見届けた時には、70歳を過ぎていました。その頃には婦人会を卒業し、地域の老人会に参加してお茶会を楽しんだり、旅行に行ったりと、充実した日々を送っていました。

 ただし、老人会の集まりは月に数回だったため、Kさんはもっと友人とおしゃべりがしたいと思っていました。そこでKさんは、自宅に友人を…

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ペホス

認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら