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とらわれの身を踊る <欧州女子刑務所編>

坂上香・ドキュメンタリー映画監督
【写真1】独房の中で踊る女性受刑者。(EUROPEAN PRISON DANCE CHALLENGE -BELGIUM)=製作:De Rode Antraciet vzw
【写真1】独房の中で踊る女性受刑者。(EUROPEAN PRISON DANCE CHALLENGE -BELGIUM)=製作:De Rode Antraciet vzw

コロナ禍のダンスチャレンジ

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、ソーシャルディスタンスという、人の接触を妨げる事態を世界に招いているが、同時に、オンラインなどの非接触メディアを通じて、人との距離を縮めようという動きが起こっていることも見逃せない。

 「ダンスチャレンジ」という試みもその一つだ。海外の病院などで、医療従事者が音楽に合わせて踊り、皆でこのコロナ禍を乗り切ろうと呼びかける姿を、国内のニュースなどを通じて目にした人も少なくないだろう。

 動画投稿サイト「ユーチューブ」の再生回数130万回を超えるドイツのシュレスウィヒ・ホルシュタイン大学病院による職員総動員のダンス(https://www.youtube.com/watch?v=UBXkj2BJJes)から、プロ顔負けのオーストリアのチロル・クリニックによるダンス(https://www.youtube.com/watch?v=jMXZoOczaWs)まで、筆者も感動で目頭を熱くした一人だ。

 ダンスチャレンジとは、通常、オンライン上でダンスを競い合うコンペを意味する。だがコロナ禍では「ケア(他者に関心を示すこと)」や「祈り」のような意味合いで人々が踊り、触発された人々が踊って発信していくという、チェーンメールならぬ“チェーンダンス”ともいえる現象になっている。

 今回は、ダンスチャレンジを世界の刑務所に呼びかける欧州の取り組みを紹介したい。

フィンランド発女子刑務所のダンスチャレンジ

 ミュージックビデオ風の落ち着いたトーンの映像。草原の中で、女性たちが2列に並んで踊る。ワンピースが風になびき、白い仮面をつけた顔がアップになる。BGMには、グラミー賞受賞バンド「トゥエンティー・ワン・パイロッツ」による「ヒーサンズ(Heathens)」のクールで物悲しいメロディーが流れる。(https://www.youtube.com/watch?v=wzC206VfCqQ)

 彼女たちが受刑者であることは、言われなければわからないだろう。身につけているのは制服ではなく、花柄のワンピースだ。振り付けも洗練されている。女性たちの背景には水辺や美しい並木道が映り込んでおり、刑務所で撮影しているようには見えない。

 これは、「欧州プリズン・ダンス・チャレンジ(European Prison Dance Challenge)」と呼ばれるプロジェクトの第1号で、2018年、フィンランドのバンヤ女子刑務所で撮影されたものだ。

 発案者は、刑期が10年の女子受刑者クリスチーナだった。有志を募って13人の受刑者と映像を作った。ダンスが好きな人から初めて踊る人までいろいろだ。振り付けは地元のダンススタジオMCDanzeに所属するティー・ガイテルとハンナカイサ・ランシサルミ、撮影はプロのカメラマン、パオラ・スホネンに依頼し、衣装はIvana Helsinki(イバナ・ヘルシンキ)というフィンランドの人気アパレルから提供してもらった。

 いったいバンヤ女子刑務所とはどういう場所なのか。

撮影現場はオープンな刑務所?

 首都ヘルシンキから電車で1時間ほどの郊外にある開放型刑務所が、バンヤ女子刑務所だ。最近見たドキュメンタリー映画では、塀がなく、普通の民家と変わりない建物が映っていた。かつて大規模農園だった敷地は木々に囲まれ、自然があふれ、湖もある。受刑者は自由に散歩することもできる。

 受刑者は、自分たちで食事を作り、洗濯をし、日中は仕事に出かけたり、学校に通ったりする。携帯電話も持ち、銀行口座もあり、買い物にも行く。刑務所の近くには、いつでも入れるサウナもある。私たちが知る刑務所の影も形もない。

 世界の刑務所に関するシンクタンクの「プリズン・インサイダー」によると、フィンランドの受刑者数は3000人弱(女性は200人程度)で、10万人あたり50人と少ない。刑務所の3分の1が開放型だ。西欧にはそもそも死刑が存在しないから、受刑者は100%出所する。刑期は全般的に短く、長期刑でさえ十数年。だから刑務所は、社会復帰を強く意識し、受刑者の更生に力を入れる。

 ジャーナリストを支援する「ピュリツァーセンター」のサイトに、バンヤ女子刑務所を取材したジャ…

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ドキュメンタリー映画監督

1965年大阪府生まれ。高校卒業と同時に渡米留学し、ピッツバーグ大学大学院(国際関係学)在学中に南米を放浪。92年から約10年間TVディレクターを務めた後、津田塾大学等で専任教員に。2012年に独立し、劇場公開向けの映画制作や上映活動を行うかたわらNPO out of frameの代表として、矯正施設等で表現系のワークショップを行ってきた。国内の刑務所を舞台にした映画「プリズン・サークル」(19年)が公開2年目に突入。劇場公開作品に「ライファーズ 終身刑を超えて」(04年)、「トークバック 沈黙を破る女たち」(14年)がある。著書に「ライファーズ 罪と向きあう」(12年、みすず書房)など。