地域で暮らし続ける~日本とデンマークの現場から フォロー

「地域で暮らし続ける」ために 日本人に求められる自己決定力と話す力

銭本隆行・日本医療大学認知症研究所研究員
自分が教員として所属していた学校。国旗が大好きなデンマーク人は何かあれば国旗を掲揚します=筆者提供
自分が教員として所属していた学校。国旗が大好きなデンマーク人は何かあれば国旗を掲揚します=筆者提供

 精神障害者や高齢者の支援を続けながら、デンマークと日本で「地域包括ケアシステム」について研究してきた日本医療大学認知症研究所研究員の銭本隆行さん。銭本さんが気付いたのは、「地域で暮らし続ける」ことの大切さだったといいます。それを実現する環境は、今の日本にはあるのでしょうか。デンマークで約10年間暮らした銭本さんが、デンマークと日本の現状を比較しながら、日本人が持つべき姿勢について解説します。

「自分で決めること」が当たり前のデンマーク

 日本では、自分のことを「他者」が決めていく傾向があります。たとえば、中学や高校では、制服から校外での活動にいたるまで校則が幅を利かせ、気付けば進路も親や教師が決めかねません。「今の学生は幼いから」という理由で、大学にも高校並みの学則が存在し、担任制を取る大学も多くなりました。会社に入れば組織のルールにしばられ、サービス残業もしばしばあり、有給休暇もなかなか取れません。定年を迎えて自由になったかと思えば、施設に入ってしまうと「喫煙も飲酒も健康に悪いから」と禁じられます。

 他者が敷いたレールに乗って生きていくことはたやすいことですが、他者が決めることに慣れてしまえば、人間は考えることをやめてしまいます。自分で何も決めずに、ただ生きているだけの人生に、どこまでの価値があるのでしょうか。

 私が見てきたデンマークでは「自分で決めること」が当たり前で、日本よりも自由がありました。それは老若男女を問いません。誰もがお互いを一人の人間として尊重し、言いたいことを言い合って、物事を決めていきます。

 たとえば、学校にはほとんど校則のようなものはありません。あるとすれば、「校内で大麻を扱えば退学」というような究極的なものだけです。そのほかは、教員と学生との間で話し合う中で“決め事”を作っていき、運用していくのです。

 これまで紹介してきたデンマークのさまざまなうらやましい社会の環境や仕組みも、個人が言うべきことを言い、政治も行政もそれらをくみ取りながら、累々と築き上げてきた結果なのです。

 日本がより暮らしやすい社会になるためには、…

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日本医療大学認知症研究所研究員

ぜにもと・たかゆき 1968年広島市生まれ、福岡市育ち。51歳。早稲田大学政治経済学部在学中にヨーロッパを放浪。そのときにデンマークと出会う。大学卒業後、時事通信社、産経新聞社で、11年間の記者生活を送る。2006年にデンマークへ渡り、デンマーク独自の学校制度「国民高等学校」であるノアフュンス・ホイスコーレの短期研修部門「日欧文化交流学院」の学院長を務めた。全寮制の同校で知的障害者のデンマーク人らと共に暮らし、日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、デンマークと日本との交流を行ってきた。2010年にオーデンセペダゴー大学で教鞭を執り、2013年にはデンマークの認知症コーディネーター教育を受けた。  2015年末に日本に帰国し、2016年3月に名古屋市の日本福祉大通信制大学院で認知症ケアシステムに関する修士号を取得し、同年、福岡市の精神障害者の生活訓練事業所の設立・運営に携わる。現在は札幌市の日本医療大学認知症研究所と名古屋市の日本福祉大学大学院博士後期課程に在籍しながら地域包括ケアシステムに関する研究を進めている。ノーマライゼーション理念の提唱者であるデンマーク人の故N.E.バンクミケルセンにちなむN.E.バンクミケルセン記念財団理事も務める。