ジソウのお仕事

児童福祉司が「一時保護は簡単にできない」と叫んだ理由

青山さくら・児童相談支援専門職員
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 「一時保護なんて、そんなカンタンにできないんです!」

 ああ、言っちゃった。若い男性の児童福祉司Mさん。熱意と行動力あふれる、児童相談所(児相)の期待の星。でも寅さんじゃないけど、今それを言っちゃあおしまいだ。

 個別ケース検討会議(※1)は、児童福祉法に基づき、子どものために関係機関が集まって情報共有をする会議。個人情報のやりとりが法的にも認められている、とっても大事な話し合いの場だ。

 中学1年の女の子、Rちゃん(13)と母親のひとり親家庭を支える関係者が集まった。中学校の校長・教頭・主幹教諭・担任・養護教諭・スクールカウンセラー、地区担当の保健師、主任児童委員、児童館指導員、母親の主治医・精神科ドクター、市役所の子ども家庭課、生活保護課のケースワーカー、そして児相の職員。総勢15人が公民館の広い会議室にロの字形に机を並べて集まっている。自己紹介だけで10分費やした。

不登校、ゴミ屋敷、ネグレクト、性虐待……

 みなこの女の子が心配なのだ。中学校は長く不登校だった。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って始まったオンライン授業のために、学校から生徒にタブレット端末が配布されているのに、Rちゃんはオンライン授業に参加しようとしない。

 小学校のころからRちゃんが時々通っている児童館の女性指導員は、性的被害に遭っていることを本人から聞いている。主任児童委員は、公営住宅に住むこの家庭の臭いを気にしている。近所の評判になっているのだ。市役所の子ども家庭課とケースワーカーは、家庭訪問したところ、家の中に4匹の大型犬がいて犬の獣臭とふん尿の強烈な臭いが漂い、室内はゴミ屋敷状態だという。母親は、Rちゃんの食事よりも犬が優先。生活保護費を使って馬肉のドッグフードを買ったり、動物保護団体に寄付をしたり、街頭で募金箱を首から下げ、動物愛護をアピールしたりする活動に参加している。

 主任児童委員の年配女性が泣きながら「こんな家に置いといたら、Rちゃんはどうなるのか、ネグレクトでしょ、児相で保護できないんですか」と訴えた。その時のM福祉司の答えが「カンタンに保護できない」だった。

 しかも、吐き捨てるように言ったものだから、参加したみなが嫌悪の目をM福祉司に向けた。私は「ま、保護も含めて、この家庭の支援策を考えていきましょうよ」と、その場の雰囲気を挽回しようとしたが、よけい白けた感じになった。

 確かに、保護は簡単なことではない。Rちゃんが拒否したら無理やり連れて行けないし、なによりRちゃん自身が“虐待を受け困っている”と申告してくれなければ、児相として対応できない。

 現状では保護が難しいケースだということくらい、関係…

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青山さくら

児童相談支援専門職員

「青山さくら」はペンネーム。複数の児童相談所で児童福祉司として勤務した後退職し、現在は自治体などで子ども虐待関連の仕事をしている。「ジソウのお仕事」は隔月刊誌「くらしと教育をつなぐWe」(フェミックス)で2009年4月から連載。過去の連載の一部に、川松亮・明星大学常勤教授の解説を加えた「ジソウのお仕事―50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所」(フェミックス)を20年1月刊行。【データ改訂版】を2021年3月に発行した。絵・中畝治子