共に生きる~子育ちの現場から

リストカットする若い女性 一人で苦しんできた彼女たちが「新しい生き方をひらく」時

渡部達也・NPO法人ゆめ・まち・ねっと代表
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 リストカット、抜毛などの自傷行為。ある調査によると、自傷経験は16~29歳の女性で最も多く、経験者の約半数が自傷行為を繰り返しています。静岡県で子どもたちの居場所づくりをしているNPO法人「ゆめ・まち・ねっと」の渡部達也さんは、自傷行為をする少女たちに出会い、それぞれが抱える生きづらさに寄り添ってきました。自傷行為をどう理解し、どのように接していけばいいのでしょうか。渡部さんが経験したエピソードから考えます。

リストカットの画像をSNSに投稿

 「あたしは生きてちゃダメなんだ……。

 何をやってもだめ。

 あたしの夢なんか叶(かな)わない。

 家がない。

 お金もない。

 人生めちゃくちゃだな……」

 20代のアヤノがネット交流サービス(SNS)にリストカットをした生々しい画像に添えて、そんな投稿をしていました。すぐにメッセージを送りました。

 「今週末は『たごっこパーク』やってるよー」

 返信はありませんでしたが、週末の冒険遊び場「たごっこパーク」(僕らが提供している自由な外遊びの場)に顔を出してくれました。木登りをする子どもや泥遊びをする子どもを眺めながら、アヤノがつぶやきます。

 「子どもたち、元気だね」

 「ほんとね。コーヒーでも飲む?」

 相づちを打ちながら、活動の相棒でもある妻が誘います。

 「いいよ、いいよ。これ、持ってきただけだから」

 アヤノは、たくさんの指輪が入った布の袋を妻に差し出しました。少し前にたごっこパークに来た時には彼氏の自慢をしていましたが、別れたのでしょうか。リストカットのSNS(ネット交流サービス)への投稿もそのことに関係しているのかもしれません。妻もそう察したでしょうけれど、そのことには触れずに聞きます。

 「なあに、これ? いらないの?」

 「アハハ。うん。300円とかで売って活動資金にして」

 「え~! これなんかステキじゃん。私がしようかなあ」

 「アハハ。それでもいいよ」

 しばらく指輪の“品評会”をして、アヤノは帰路に就きました。お互いにリストカットのことには触れませんでした。

 アヤノは中学生だった11年前、僕らが放課後の居場所として開いたばかりの「おもしろ荘」に遊びに来ました。以来、同年代の友人たちの「仲良し3人組」で必ず寄っては、おしゃべりをしたり、トランプや「UNO(ウノ)」などのカードゲームを楽しんだりしていくようになりました。

若い女性に多い自傷行為

 「わが国における自傷行為の実態 2010年度全国調査データの解析」(第59巻 日本公衆衛生雑誌 第9号)によると、16~49歳の約1500人が回答した調査で、全体の7.1%に少なくとも1回以上の自傷経験がありました。男女ともに経験者の約半数が自傷行為を繰り返す「反復自傷経験者」だったと報告されています。

 男女別、年齢階級別(16~29歳、30~39歳、40~49歳)で最も多かったのは16~29歳の女性(15.7%)で、多くの先行研究と同様の結果と記されています。また、自傷経験が「ある」と答えた人(自傷群)と「ない」と答えた人(非自傷群)を比べると、自傷群では喫煙者(自傷群47.5%、非自傷群28.2%)∇虐待経験者(自傷群23.6%、非自傷群3.7%)∇人工妊娠中絶経験者(自傷群30.3%、非自傷群12.7%)の割合が有意に高かったと分析されています。一方、「中学生時代の生活が楽しかった」と答えた人では、自傷群は有意に低かったという結果でした(自傷群41.1%、非自傷群78.6%)。

 リストカットを頻繁に繰り返しているアヤノも、中学生の頃から喫煙や飲酒をしていました。時には、妻が「今日はいったい、何本、吸ってきたのかな?」と聞きたくなるぐらい、たばこの臭いをまとってやって…

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渡部達也

NPO法人ゆめ・まち・ねっと代表

わたなべ・たつや 1965年静岡県三島市生まれ。茨城大卒。88年静岡県庁入庁。児童相談所ケースワーカーや大規模公園「富士山こどもの国」の設立・運営、国体および全国障害者スポーツ大会の広報などに携わる。「まちづくり」という夢を追い求め、2004年に16年余り勤めた県庁を退職。同県富士市に移住し、同年秋、妻・美樹と共にNPO法人「ゆめ・まち・ねっと」を設立。空き店舗を活用した放課後の居場所「おもしろ荘」や地元の公園と川で自由な遊びを楽しむ「冒険遊び場たごっこパーク」、「0円こども食堂」などの開催を通じて、子どもの遊び場づくり・若者の居場所づくりに取り組む。里親として虐待を受けた子どもの社会的養育にもかかわっている。愛媛県松前町が創設し「義農精神」(利他の精神)を体現する活動に取り組む個人・団体を表彰する第1回「義農大賞」など受賞多数。 著書に「子どもたちへのまなざし-心情を想像し合い 積み重ねてきた日常 切れ目のない関係性-」(エイデル研究所)。