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「不治」と「誤治」ーー漢方の失敗学

津田篤太郎・NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長
 
 

 医療は神ならぬ人がやっていることですから、いつも良い結果を生むとは限りません。医療ミスや薬害といった話題はマスコミでセンセーショナルに取り上げられる機会も多いのですが、医療がつまずく要因はほかにもあります。

 中国最古の歴史書の一つである「史記」には「扁鵲倉公列伝(へんじゃくそうこうれつでん)」という名医2人の伝記が含まれています。その中の記述で、「病に六不治(ろくふち)有り」という有名なくだりがあります。次の六つの点に一つでも当てはまったら、病気が治りにくい要注意のサインだというのです。

 一つ目はおごり高ぶって理屈の通らないことを言い募ること。病気を治療していく中で患者さんは時に受け入れたくない事実や聞きたくない注意、できれば避けて通りたい投薬や手術と向き合わなくてはなりません。そんな時に自分に都合の良い理屈をこねて逃げたり、やりたいことしかやらない姿勢だったりすると治療の成果はおぼつかなくなります。

 二つ目は身を軽んじ財を重んじること。高価な薬やコストの高くつく医療がいつも良いというわけではありませんが、命や健康はお金には代えがたい大切なものであると認識していない人は、体を大事にしない行動をとりがちだというのは事実でしょう。

 三つ目は食事の節制や衣服の調節に気を配らないこと。現代人にはもう一つ、「睡眠の不足」をここに書き加えるべきかもしれません。

 四つ目は内臓機能の失調がある場合です。肝臓や腎臓といった臓器は大きな予備能力があり、多少のトラブルを抱えていても通常運転を続けられることもあります。しかし臓器そのものの機能が低下してしまうと、生命の維持が困難になっていきます。外傷や感染症、腫瘍といったトラブルは手術や薬剤で解決するケースもありますが、肝不全や腎不全に至ってしまうともとに戻すのが難しく、その多くが薬でわずかに進行を遅らせる程度の効果しか望めません。

 五つ目は体が弱りすぎて漢方薬を内服できない、六つ目は祈とう師や占師にばかり頼って医者の言葉に耳を傾けない、といった事柄が列挙されています。

 現代医学では病気の治りやすさや治りにくさを見積もるために、顕微鏡の所見を参考にしたり、コンピューター断層撮影(CT)検査などで病気の広がりを調べてそれによってグループ分けをしたり、血液検査の数値や血圧・脈拍・意識状態などを点数化したりします。最近では…

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NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長

1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、聖路加国際病院Immuno-Rheumatology Centerを経て、現在、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。