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「心を持ったコンピューターになれた」 毎日の生活に“効く“認知行動療法とは?/上

大野裕・精神科医
 
 

 精神科医の大野裕です。

 私の専門は、連載のテーマでもある認知行動療法とされています。診療場面では、薬物を使ったり、ストレスが軽くなるように環境に働きかけたり、それぞれの患者さんと相談しながら、そのとき一番良いと考えられる治療を行ってきましたが、認知行動療法のような心理的なアプローチを重視する精神科医がそれほど多くなかったこともあり、「認知行動療法の専門家」と言われるようになりました。

 さて、ここまで認知行動療法という言葉を何度も使ってきましたが、それがどのようなものなのかわかる人は多くないかもしれません。言葉だけからは、「認知症の治療法」だと誤解されることもあります。しかし実際は、認知という心の働きに目を向けて話し合うことで、うつや不安、怒りなどの感情をコントロールし、さまざまな精神疾患の症状を軽くする治療法です。

 これから詳しく説明していきますが、その考え方は誰もが日常生活を送るなかで自分らしく生きていくためにも使えます。それは、認知行動療法が、ストレスを上手に味方にして生きていっている人たちが、意識せずに使っている“コツ”を上手に使えるようにまとめたものでもあるからです。

認知行動療法との出合い

 認知行動療法に初めて出合ったのは、私がアメリカ留学中に苦労していた時期でした。私は、30代半ばで、医師としての力を高めたいと考えて米ニューヨーク州にあるコーネル大学に留学しました。知人のツテを頼って飛び込みのように始めた留学だったこともあって、受け入れられるまでにずいぶん時間がかかりました。

 アメリカでの診療が許されるための試験に合格はしていましたが、免許が発行されるまでには多くの手続きが必要です。英語もさほど上手ではない東洋人が診療を始めることに対して、必ずしも好意的でない人もいます。当初期待したようには物事が進まず、気持ちが塞ぎ込む毎日が続きました。「このまま誰にも受け入れられず、何も身につけられず日本に帰国してしまうのではないか」と考えるようになっていました。

 そうしたときに出会ったのが、アレン・フランセス教授です。その後、…

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精神科医

おおの・ゆたか 1978年、慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科学教室入室。コーネル大学医学部、ペンシルベニア大学医学部に留学を経て、慶応義塾大学教授を務めた後、独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センターセンター長に就任、現在顧問。認知行動療法研修開発センター理事長。国際的な学術団体 Academy of Cognitive Therapy の設立に関わり、日本認知療法・認知行動療法学会、日本ポジティブサイコロジー医学会の理事長。認知行動療法学習サイト「こころのスキルアップトレーニング」やAIチャットボット「こころコンディショナー」を発案・監修。