街のお坊さん 生と死を語ります フォロー

残された人たちの生きる力になるものとは?

星野哲・ライター/立教大学社会デザイン研究所研究員
「あさくさ山谷光潤観音」前で=筆者撮影
「あさくさ山谷光潤観音」前で=筆者撮影

 社会でさまざまな活動をしているお坊さんに問いかけ語り合うシリーズの2回目。東京都台東区の光照(こうしょう)院住職の吉水岳彦(がくげん)さんは、支援や供養を通して路上生活者などと向き合い対話してきた中で学んだことを話します。

死後も仲間をつなぐ墓――東京都台東区・光照院(浄土宗)住職 吉水岳彦さん

 ――お寺のある山谷地区を中心に、路上生活者などが亡くなった後のご供養といった葬送支援や、夜回りで路上生活者に弁当や薬、衣服などを配る「ひとさじの会」の活動を14年間、続けていますね。

 ◆私たちの活動は「支援」などとは呼べない小さな働きで、ただ人と人とのご縁のなかで精いっぱいのお付き合いをさせていただくだけなので「支縁」という言葉を使っています。

 活動は、新宿で生活困窮者を支える活動をしているNPOから「路上生活者や身寄りのない方々のためのお墓が欲しい」と相談を受けたのがきっかけでした。なぜお墓が必要なのか、その理由が当時は全くわかっていませんでした。理由を尋ね、NPOのサロン活動に通っていた70代の男性が亡くなったときのお話をうかがいました。

 男性は1人暮らしで生活保護を受けていました。部屋で亡くなり、死後数日たって発見され、行政によって福祉葬が行われることになりました。それで、NPOのスタッフは、行政から言われた時間に男性とご縁のあった当事者たちと共にお見送りをしようと火葬場に行きましたが、棺(ひつぎ)が見当たりません。ペット斎場もある火葬場なので、念のためそちらを探しても見当たらない。ペット斎場の横には雑然とした倉庫があって、そこに棺が置きっぱなしだったそうです。

境内に四つの活動団体の墓を建立

 それを見たNPOスタッフや当事者たちは「精いっぱい生きて、精いっぱい働いて、最期を迎えた人が、どうしてお金がないだけでこんな扱いを受けなきゃいけないのか」と、悔しいやら腹立たしいやらでわんわん泣いたといいます。この時、NPOスタッフが懸念したのは「結局、俺たちなんて死んだらこうなるんだ。野垂れ死にと同じじゃないか。どんなふうに生きたって、こんなになるんだったら好き勝手やったらいいじゃないか」と、同じ境遇の方々が自暴自棄になってしまうことでした。最期を仲間たちと大切に見送り、死後もつながりが途切れないようにするためにも、お墓が欲しいと相談にみえたのです。この時に建立した「結の墓」をはじめ、いまは四つの活動団体のお墓が境内にあります。

 死は誰にも平等ですが、それに付随するものは全然平等ではないんです。このご相談があってから新宿や池袋、山谷で炊き出しボランティアなどをさせてもらう中で、当たり前ですが、路上で暮らす方々にも私と同じように子ども時代があって、仕事をして一生懸命に生きてきたのであり、人としては何も変わらないということに気づかされました。私は山谷地区に生まれ、路上に暮らす多くの人たちを子どもの頃から目にして知ったつもりになっていました。でも、何もわかってなどいなかったのです。私は差別する意識もないままに、彼らを「怠けていて」「勝手気ままに暮らしたくて」路上で暮らしているのだと思い込み、無自覚に差別していたのです。

葬送に立ち会うとは

 ――お墓や葬送を支援することで何が変わったのでしょう?

 ◆NPOなどによる定期的な追悼供養で読経するほか、殺人事件の現場や、公園の遊具で首をつった場などでもご供養させてもらっています。ご供養しながら感じることは、路上に出て亡くなる人の何倍もの人たちが、路上に出る前に「もう人生終わりだ」と絶望のうちに自ら命を絶っているだろうことです。友人や家族などに頼るすべがない、身寄りがない。そんな絶望を経験する中で、自ら命を絶つか、ホームレス状態になってでも生きるかという究極の選択を迫られています。私の中で変わったことは、路上で生きている人に対し、苦しくとも生きることを選ばれたのだと、尊く感じるようになったことです。

 葬送支縁の活動で教えられたのは、葬送することが残された人たちの生きていく力にもつながっていることです…

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ライター/立教大学社会デザイン研究所研究員

ほしの・さとし 1962年生まれ。元朝日新聞記者。30年ほど前、墓や葬儀の変化に関心を持って以降、終活関連全般、特にライフエンディングについて取材、研究を続けている。2016年に独立。立教大学大学院、東京墨田看護専門学校で教えるほか、各地で講演活動も続ける。「つながり」について考えるウエブサイト「集活ラボ」の企画・運営も手がける。著書に『人生を輝かせるお金の使い方 遺贈寄付という選択』(日本法令)、「『定年後』はお寺が居場所」(同、集英社新書)「終活難民-あなたは誰に送ってもらえますか」(2014年、平凡社新書)ほか。