
日常生活自立支援事業は、単身の高齢者が認知症になったとき、成年後見制度のように、包括的に権利を制限されることなく、社会福祉協議会の専門員が福祉サービスの利用の援助や生活費の管理などを担う制度です。いい制度なのに知名度が低いのは「お金も人手もかかり、あまり知られては困るからでは」と筆者は話します。
成年後見制度で「人権を守る」は時代錯誤?
前回まで4回にわたり、成年後見制度の問題を取り上げました。現在の成年後見制度は、明治時代に家の財産を守るために設計された法律の骨組みを残したまま、第二次世界大戦後に、「家の財産」保全を「個人の財産」保全に言い換え、さらに2000年の民法改正で自己決定支援、ノーマライゼーションを法の理念に掲げるなど、時代に合わせた化粧直しを重ねてきたものです。障害者の財産権に対する包括的な制限を前提とする成年後見制度で人権を守るという考え方は、著しい時代錯誤だというのが私の意見です。
今回は、日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護事業)について考えてみます。みなさん、この制度はご存じですか。おそらく、成年後見制度以上に知られていないでしょう。私は、いい制度だと思うのですが、人手もお金も足りず、実施する社会福祉協議会や、お金を出す役所にとっては、あまり知られても困る事業なのではないかと私はいぶかしく思っています。
介護保険制度の半年前にスタート
話は介護保険導入時期にさかのぼります。00年に発足した介護保険制度は、それまで行政による措置だった介護福祉サービスの提供を、抜本的に変革するものでした。近未来の介護需要に対する財政負担の増大が必至の情勢下で、社会福祉法人や行政が担っていた介護福祉サービスを民間事業者に開放し、サービス提供を事業者と個人の契約に基づいて提供されるものに変えることによって、競争原理が働くようにすれば、サービスの質も量も充実するというのが制度発足時の狙いでした。
したがって、介護保険制度の前提は、事業者とサービスを買う高齢者が、対等な立場で「契約」を結ぶという方法を保証するものです。同居家族がいる場合、家族が代理で契約すれば済みます。家族には、事業者が示す条件を理解し、より良いサービスを提供する事業者を選択する能力があるからです。こうした場合、家族に法的代理権がないことを問題にする人はいません。
しかし、単身の高齢者が認知症になった場合はどうでしょう。事業者を相手に、対等な立場で契約を結ぶことは困難です。…
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