街のお坊さん 生と死を語ります フォロー

自死遺族に「絶対」言わないこととは?

星野哲・ライター/立教大学社会デザイン研究所研究員
藤尾聡允さん(筆者撮影)
藤尾聡允さん(筆者撮影)

 社会のさまざまな課題に向き合うお坊さんに、問いかけ語り合うシリーズの3回目。実家の寺を継いだ神奈川県横須賀市の独園寺住職の藤尾聡允(そういん)さんは元銀行員。知人の自死をきっかけに約20年、自死遺族らと関わってきました。

銀行員時代の後悔と決意――神奈川県横須賀市・独園寺(臨済宗建長寺派)住職 藤尾聡允さん

 ――有志のお坊さんたちによる「自死・自殺に向き合う僧侶の会」共同代表を務めていますね。どんな活動なのでしょう?

 ◆自死遺族が集まってそれぞれの思いを語る分かち合いの会や、10代とお坊さんのオンライントークを毎月開催しています。また、毎年12月1日にはご遺族が参列する自死者追悼法要を行っています。残された人たちが悲嘆をシェアし合うとともに「いのち」にむきあう機縁になっています。

 他にも死にたいと思うほど悩んでいる方と手紙のやりとりをする往復書簡、亡き人への思いをつづった手紙をおたき上げする「虹のポスト」などさまざまな活動を行っています。個人的な取り組みも含めると20年ほど自死に関わってきました。

 いずれの活動も、自分自身の心の中を深くみつめていただき、絡まった糸をほぐしていくように気持ちの整理をつけていくお手伝いをしています。「死んではならない」などとお説教することはありません。できるだけ仏教の言葉を使わず、わかりやすい平易な言葉を使うように心がけています。また、相手の状況はみな違いますので、一人一人のお気持ちを丁寧に傾聴しながら、それぞれの思いを受け止めるようにします。いわば、自分自身で苦しみを深くみつめ、その根源に気づいて立ち直っていくためのお手伝いです。

 ――自死に関わるきっかけがあるのですか?

 ◆この寺で生まれ育ちましたが、大学卒業後は銀行に就職しました。バンコク事務所長をしていた1997年7月、アジア通貨危機に巻き込まれ、日本からのプレッシャーと現地の恐慌のような状況との板挟みで髪がみるみる白くなり、死んだら楽になるだろうなという気持ちがよぎったこともありました。

 なんとか打開策をみつけて助かりましたが、同じ時期に他社でバンコク勤務をしていた高校の後輩が自死してしまったのです。「あのとき、自分に何かできたのではないか」という後悔の念がいまもあります。

 その後、銀行を辞めて修行に入っている時、親しい幼なじみが自死しました。当時は日本全体で自死者が増え続け、年間3万人超となっていく時期で、僧侶として何かできないかと思い立って関わり始めました。

自死を「罪」とは言わない

 ――自死を考える人にとって「死」が安寧、希望となる場合があると思いますが、それを止めることの意味は?

 ◆おっしゃる通り、死は涅槃(ねはん)に入るとか、寂滅の場などともいわれることがあります。たしかに安らぎの場と考える人もいるかもしれません。不治の難病の方が安楽死を望むなどもそうかもしれません。

 でも、本当に死にたくてというより、いま置かれている立場からどうにか逃れたいとか、死にたいほどの苦しみや悲しみから解放されたいという面が強い場合もあります。これまでの活動から、死にたくて死ぬのではなく、この生き地獄のような苦しみからなんとか逃れたいという人の方が多いように思います。であれば、もし何かできることがあれば手を差し伸べてあげたい。それが私たちの活動でもあり、私個人の気持ちです。

 宗教によっては、「自死は罪」という考え方で自死をとどめようとすることもあります。それも一理あり否定しませんが、自死が罪といってしまうと、ご遺族は罪人の娘とか親とかになってしまい、苦しんでしまいます。だから対機説法、つまり一人一人の状況に応じて丁寧に対応していくなかで自死を思いとどまってほしいと願っています。

 自死遺族や残された友人、同僚など、自死した人の周りの多くの人たちの心には悲しみや後悔、怒り、抑うつ、厭世(えんせい)観などさまざまな影を落とし、時には心を闇で覆ってしまいます。このことも忘れてほしくないのです。

避けられない死を受容する

 ――先ほど不治の難病という言葉がありました。たとえば余命宣告を受けた方は、いわば半分は死に身を寄せている。そうした方にかける言葉は?

 ◆特…

この記事は有料記事です。

残り2535文字(全文4276文字)

ライター/立教大学社会デザイン研究所研究員

ほしの・さとし 1962年生まれ。元朝日新聞記者。30年ほど前、墓や葬儀の変化に関心を持って以降、終活関連全般、特にライフエンディングについて取材、研究を続けている。2016年に独立。立教大学大学院、東京墨田看護専門学校で教えるほか、各地で講演活動も続ける。「つながり」について考えるウエブサイト「集活ラボ」の企画・運営も手がける。著書に『人生を輝かせるお金の使い方 遺贈寄付という選択』(日本法令)、「『定年後』はお寺が居場所」(同、集英社新書)「終活難民-あなたは誰に送ってもらえますか」(2014年、平凡社新書)ほか。