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「糖尿病でもしっかり食べなきゃだめ」な理由とは

矢部大介・岐阜大学糖尿病・内分泌代謝内科学教授
 
 

 生活習慣病である糖尿病には、食事制限のイメージがありますが、年齢とともに、適切な食事の量は変わってくると矢部大介・岐阜大教授は話します。特に糖尿病がある人では、老化に伴い筋肉が減少する「サルコペニア」から、心身ともに老い衰える「フレイル」になりやすいといわれています。自分に適した摂取エネルギー量やたんぱく質量を知り、サルコペニアやフレイルを予防しましょう。

高齢期は「過栄養」から「低栄養」対策にギアチェンジ

 「糖尿病になってからご飯もおかずもあまり食べさせてもらえなくて……。ほんとに食べてもいいのですか」

 近隣の診療所から診察を依頼された70代の糖尿病の方とその奥様に、食事の見直しを提案した時に返ってきた言葉です。

 糖尿病というと「食事制限」と思われがちですが、大切なのは適切な量の食事をとることです。特に高齢者には、制限でなく、むしろ頑張って食べるようにお願いすることも少なくありません。

 2008年度以降、40~74歳を対象に特定健康診査(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導が実施され、糖尿病など生活習慣病予防のため食事制限による減量が強調されてきました。

 しかし、超高齢社会を迎えた現在、高齢期の低栄養が原因となる病気を予防するため、しっかりと食事をとるべく「ギアチェンジ」が必要です(図1)。

 とはいえ、個人差があり年齢だけで区別するのは限界があります。65歳未満であってもすでに筋肉量が減り、筋力が低下している方がいる一方、75歳を超えても、生き生きとされている方は多くいます。

 ギアチェンジのタイミングについては、「指輪っかテスト」(図2)と、「SARC-F」という5項目の質問に答える方法などがあることを紹介します。医師に相談してみてもいいでしょう。

生活習慣病はサルコペニアのリスクを倍増

 日本では100歳を超える百寿者が8万人を超え、平均寿命も男性81.64歳、女性87.74歳(2020年)で、ともに過去最高を記録しました。しかし、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義される「健康寿命」は男性72.68歳、女性75.38歳(19年)と、平均寿命に対して男性で約9年、女性で約12年短い状態にあります。

 その原因として、全身の筋肉量が減り、筋力や運動機能の低下する「サルコペニア」という状態が注目されています(図3)。

 サルコペニアが進むと、転倒・骨折から寝たきりになったり、誤嚥(ごえん)から肺炎になり、最悪の場合、生命に危機が及んだりします。またサルコペニアに加えて、認知機能等も低下すると、生活機能に支障が出て「フレイル」という状態に至りますが、さらに進行すると要介護状態に至るため、適切な食事や運動などで予防や治療が必要です。

 糖尿病のある方は、糖尿病のない方に比べ2倍以上、サルコペニアになりやすいという報告もあり注意が必要です。通院中の糖尿病患者さんをみても、65歳以上では5人に1人、75歳以上では3人に1人がサルコペニアの状態にあると報告されています。

 糖尿病では、血糖値を一定に抑える働きのある「インスリン」という物質が体内で十分に作られない、もしくは作られていても効きが悪いため、食事から吸収した糖を筋肉などでエネルギー源として効率よく用いることができず、血糖値が上昇します。インスリンは食事から吸収したアミノ酸を用いて筋肉をつくるためにも大変重要な物質です。

 したがって、糖尿病の方は、定期的に医療機関に通院し、適切な量の食事や運動に加え、必要に応じて薬物治療を受け、インスリン不足を補うことで、筋肉量を減らさず、サルコペニアを予防する必要があります。

体重増は「体脂肪増」でなく「筋肉増」で

 さて、適切な量の食事とひとことでいっても、その量は個々人で異なり、「目標体重」に「活動(エネルギー)係数」をかけて、総エネルギー摂取量(キロカロリー)として求めます(図…

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岐阜大学糖尿病・内分泌代謝内科学教授

やべ・だいすけ 1973年生まれ。98年京都大学医学部卒業、2003年テキサス大学大学院修了。関西電力病院糖尿病・内分泌・代謝センター部長、関西電力医学研究所副所長、京都大学医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学特定准教授などを歴任し、18年から岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学、膠原病・免疫内科学教授。岐阜大学病院では副病院長や医療情報部長、国際医療センター長を務める。 糖尿病や肥満症、栄養が専門。糖尿病や肥満症の予防、治療として注目される「食べる順番」や食習慣と薬物療法の関係性など、食事療法を中心に臨床研究を展開する。血糖値をコントロールするインスリンを分泌する膵ベータ細胞、インスリン分泌を促す「インクレチン」という物質の基礎研究にも従事。日本糖尿病協会の活動を通して、糖尿病の正しい知識の普及啓発や糖尿病教育・支援にたずさわる人材育成、糖尿病の重症化を防ぐ地域連携にも精力的に取り組む。