
日本のメディアではさほど大きな扱いをされていないようですが、欧米では現在、毎日のように長い記事や特集記事が掲載されている感染症、それがモンキーポックス(サル痘)で、現在欧米を中心に500人以上の感染者が報告されています(日本では5月31日現在、感染者は確認されていません)。今回は、この感染症が今後どの程度広がるのか、どのようなことに気を付けるべきなのかを私見をふんだんに取り入れて紹介したいと思います。
天然痘の軽症版
まずは病名について。日本のメディアではたいてい「サル痘」とされていますが、「サルトウ」と聞いてすぐに「痘」の文字を思い浮かべられる人はそう多くないでしょうし、英語名が覚えにくいわけでもないので、本稿では英語名の「モンキーポックス」(monkeypox)で統一します。
モンキーポックスは名前の通り、サルに感染する感染症です。サルからヒトにも感染するのですが、サルからだけではなく、げっ歯類(ネズミの仲間)からヒトへの感染もありますし、ヒトからヒトへの感染もあります。現在欧米での流行はほぼ全例が、ヒトからヒトへ感染したものと考えられています。モンキーポックスの病態は「天然痘の軽症版」と考えてOKです。
天然痘といえば人類がワクチンをもって制することができた唯一の感染症です。1980年に世界保健機関(WHO)が「根絶宣言」をして以来、世界中のどこでも新たな患者発生はありま…
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谷口恭
太融寺町谷口医院院長
たにぐち・やすし 1968年三重県上野市(現・伊賀市)生まれ。91年関西学院大学社会学部卒業。4年間の商社勤務を経た後、大阪市立大学医学部入学。研修医を終了後、タイ国のエイズホスピスで医療ボランティアに従事。同ホスピスでボランティア医師として活躍していた欧米の総合診療医(プライマリ・ケア医)に影響を受け、帰国後大阪市立大学医学部総合診療センターに所属。その後現職。大阪市立大学医学部附属病院総合診療センター非常勤講師、主にタイ国のエイズ孤児やエイズ患者を支援するNPO法人GINA(ジーナ)代表も務める。日本プライマリ・ケア連合学会指導医。日本医師会認定産業医。労働衛生コンサルタント。主な書籍に、「今そこにあるタイのエイズ日本のエイズ」(文芸社)、「偏差値40からの医学部再受験」(エール出版社)、「医学部六年間の真実」(エール出版社)など。太融寺町谷口医院ウェブサイト 無料メルマガ<谷口恭の「その質問にホンネで答えます」>を配信中。