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「どんな未来を望みますか?」 弱者を切り捨てる社会で問いかける映画「PLAN 75」 早川千絵監督インタビュー

西田佐保子・毎日新聞 医療プレミア編集部
映画「PLAN 75」の主役、倍賞千恵子さん(右から2人目)について、「『なんて美しいんだろう』と思いながら撮っていました」と語る早川千絵監督(中央)Ⓒ2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
映画「PLAN 75」の主役、倍賞千恵子さん(右から2人目)について、「『なんて美しいんだろう』と思いながら撮っていました」と語る早川千絵監督(中央)Ⓒ2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)の次点となる特別表彰を受けた早川千絵監督(45)の初長編映画「PLAN 75」(2022年)が、17日に公開される。近い将来の日本を舞台に、75歳から生死の選択権を与える制度「プラン75」が推奨される社会を描いた作品だ。「日本では経済優先主義を優先するあまり、一番大切な人間の尊厳が失われつつあると感じていました」。そう語る早川監督に作品に込めた思いを聞いた。【聞き手・西田佐保子】

主人公の設定を78歳のパート勤務女性にした理由

 少子高齢化が進む日本で、75歳以上が自ら生死を選択できる制度「プラン75」が国会で可決される。パート勤務をする78歳の角谷ミチ(倍賞千恵子)は、あることをきっかけに制度の申請を考えはじめる。プラン75に携わる若者たち、市役所の窓口で働くヒロム(磯村勇斗)、コールセンタースタッフの瑶子(河合優実)、関連施設で働くフィリピン人介護士のマリア(ステファニー・アリアン)は、高齢者と交流を重ねることで、制度に疑問を抱くようになる――。

 「PLAN 75」は、日本の10年後をテーマにしたオムニバス映画「十年 Ten Years Japan」(18年)で早川さんが脚本・監督が手掛けた短編「PLAN75」のキャストを一新し、物語を再構築した作品だ。 

 ――短編「PLAN75」のアイデアはどのように生まれたのでしょうか。

 ◆ここ数年の間に、日本社会は生きづらくなっているという感覚がありました。「自己責任」という言葉や、生活保護バッシング、政治家や著名人たちの差別的な発言も頻繁に耳にするようになり、助けを求めたくても求められない、ちゅうちょしてしまうような空気が流れていた。特に、社会的に弱い立場にいる人たちに対する風当たりが強くなったように感じていました。

 そのような中で16年に起きたのが相模原の障害者施設殺傷事件です。大きな衝撃を受けたのと同時に、不寛容になっていく社会で、起こるべくして起きた事件ではないかという危機感を持ちました。

 このままでは超高齢化問題の解決策としてプラン75のような制度がこの日本に生まれてしまうのではないか――。そんなことが頭に浮かび、「今、この映画を作るべきだ」と思い立ちました。

 ――ふとしたきっかけで、不自由なく日常を送っていた人が生活に窮する。誰がいつ、弱者になるかわからない。そんなリスクを抱えて生きている事実を突きつけられます。

 ◆正にその通りで、貧困や病気でもない人がある日突然、弱者になる。危うい社会に私たちが生きているという現実を見せたいと思いました。

 ――友人と重ねる手、ハイタッチする手、自分を支えるためにガードレールをつかむ手など、さまざまな感情を表す「手」がスクリーンに映し出される中、誰かに助けを求めるために挙げる手は描かれていなかったように思います。

 ◆いい点に気付いてくださいましたね。これからそのように撮るようにします。

 ――意識されているかと思ったら違ったようですね(笑い)。ところで、1人暮らしでパートとして働く78歳のミチをメインキャラクターとしたのはなぜですか。

 ◆非正規雇用労働者の割合は女性が高く、賃金も男性に比べて低い。日本は男女格差が歴然とある社会です。女性はより生きづらく、困窮している方が多いという意識がありました。

 映画やドラマに出てくる高齢の女性は、「やさしいおばあちゃん」といった当たり障りのない役が多くて、人格が浮かび上がってきません。当たり前のことですが、みな性格は違うし、異なる感情がある。一人の人間として描くことで、共感してもらいたい、自分のこととして感じてもらいたい、という気持ちが大きかったです。

 ――日本では、シニア女性を主役に据えた映画は少ないですね。

 ◆今回、映画の出資者を募っているときにも、「高齢者が主役の映画ではお客さんが入らないので難しいです」と言われることが多かったですね。そこに風穴を開けたいという気持ちもありました。

日本人の心に潜む自己犠牲の精神

 ――短編の「PLAN75」は、コロナ禍で静かに広がる「優生思想」を予測していたかのような作品に思えます。

 ◆長編を作る上で、コロナが与えた影響は大きかったですね。年齢によって人工呼吸器を提供しないなどの(優先順位をつける)「トリアージ」について議論されたり、「私は若い人に高度医療を譲ります」という意思カードが話題になったり、すでに「PLAN75」が始まっているのではないかと恐ろしくなりました。

 そんな今、さらに人を不安がらせるような映画を作るべきか悩んだ時期があったのも事実です。短編では、「このような社会でいいですか?」といった問題提起を行いましたが、長編では「どのような未来を望みますか?」と問い、さらに希望や願いも映画に込めようと決め、物語の方向性が固まっていきました。

 ――脚本執筆のため、シニア世代の方々にお話を聞きましたか。

 ◆60~80代の女性15人にお会いしました。「プラン75」について聞くと、「こんな制度があるといいわ」と。積極的に使いたいというよりも、…

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毎日新聞 医療プレミア編集部

にしだ・さほこ 1974年東京生まれ。 2014年11月、デジタルメディア局に配属。20年12月より現職。興味のあるテーマ:認知症、予防医療、ターミナルケア。