理由を探る認知症ケア

認知症の「帰宅願望」? Tさんがサ高住の“チェックアウト”を求めたわけ

ペホス・認知症ケアアドバイザー
  • 文字
  • 印刷
 
 

 初期の認知症がある80代のTさんは、同じく80代で認知症の妻と2人暮らし。夫婦ともに要介護認定を受け、訪問介護サービスを利用しながら、しばらくは落ち着いた生活をしていました。ある日、Tさんが骨折して入院してしまい、退院後は夫婦でサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居することになりました。入居した翌朝、Tさんは職員に「家に帰るので精算をお願いします」と訴え、それを繰り返すようになります。対応に困った職員から相談を受けた認知症ケアアドバイザーのペホスさんは、対策を探り始めます。Tさんの訴えは認知症の人にみられる「帰宅願望」なのでしょうか? ペホスさんが解説します。

月1回は夫婦で旅行に出かけていたTさん夫妻

 Tさん(85歳)と妻(82歳)との間には、2人のお子さんがいました。お子さんが遠方の大学に進学し、それぞれが1人暮らしをしたこともあり、Tさん夫妻は早くから2人で暮らしていました。

 Tさんは製薬会社の研究職として、妻は生命保険の外交員として働いていましたが、月1回は夫婦で旅行に出かけるほど仲も良く、遠方に住んでいるお子さんたちも両親が仲良く暮らしているのを見て、安心していました。

 ところが、Tさんの妻が70歳を過ぎた頃に、骨粗しょう症で腰の圧迫骨折をし、長い距離を歩くことができなくなり、旅行に行けなくなってしまいました。夫婦で行っていた普段の買い物も行けなくなり、行動範囲が狭まりました。妻は75歳を過ぎた頃、アルツハイマー型認知症と診断されました。

妻だけでなくTさん自身にも変化が

 介護認定を申請した結果、妻は要介護2と認定されました。一人では家事ができなくなっていたため、介護保険の訪問介護サービスの利用を希望しました。しかし、健康なTさんと2人暮らしだったこともあり、訪問介護サービスは利用できず、買い物・料理・掃除・洗濯などはTさんが担っていました(※注)。そして、閉じこもりがちだった妻が「趣味のカラオケを楽しみたい」と望んだため、デイサービスに週2回通うことにしました。

 Tさんは至って健康に過ごしている――と誰もが思っていたのですが、…

この記事は有料記事です。

残り1856文字(全文2741文字)

ペホス

認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら