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“若気の至り”に後から気づく理由とは? 「結晶性知能」の真実

西川敦子・フリーライター
 
 

 私たちは「年をとると頭が鈍るのは当たり前だ」と思っている。実際、「昔はもっとさえていたのに……」とがっくりした経験のある大人世代は少なくないだろう。だが、必ずしもそうではない、と国立長寿医療研究センター老化疫学研究部副部長の西田裕紀子さんは言う。年をとることで逆に高まっていく不思議な知能「結晶性知能」とは?

人間に備わった二つの知能

 年を重ねれば記憶力は落ちる。直感力や判断力の衰えを感じることもあるだろう。実際、1920~50年代ごろの心理学のさまざまな研究では、知能テストなどの結果から「人の知能は20歳ごろをピークに下がっていく」と考えられていた。

 この常識に異論を唱えたのが米国の心理学者、レイモンド・キャッテルとジョン・L・ホーンだ。1970年代、彼らは「人の知能は大きく二つに分かれる」と提唱した。一つは20歳ごろをピークとする「流動性知能」。もう一つは、歳を重ねるにつれ学習や経験によって向上する、もしくは高いまま維持される「結晶性知能」だ。

 それぞれ具体的にどのような知能なのだろうか。西田さんは次のように説明する。

 「流動性知能はスピーディーに課題処理をするための知能です。直感力、法則を発見する能力、図形処理能力などがあてはまります。ひらめきや、頭の回転の速さが関係する知能といえばいいでしょうか」

 流動性知能は、脳の加齢の影響を受けやすい。特に、学習や記憶に関わる「海馬」という脳の部位と関連が深いことがわかっている。海馬は脳の中でも加齢に伴い萎縮する傾向があるため、流動性知能もまた加齢で衰えやすいとの説がある。

 ただし、成人後も流動性知能を高く保ち続ける人もいる。西田さんは「キャッテルとホーン以後の研究には、流動性知能も50歳ぐらいまで低下せず、ある程度維持されると結論づけたものもあります」と説明する。

結晶性知能が伸び続ける人の特徴とは

 もう一つの結晶性知能とはどのような知能なのだろうか。

 「言語能力や理解力、洞察力、内省力、社会適応力などを指します。いずれも人間として豊かな社会生活を営むために必要不可欠な能力ですよね。ひとことで表現すれば “知恵”でしょうか」と西田さん。

 さまざまな人生経験を積み重ねていくことで知恵がつけば、同じ失敗を繰り返さずに済む。人の気持ちを察し、思いやることもできるだろう。その昔、若気の至りで失敗してしまったこと、心ない言葉で誰かを傷つけたことを思い出し、恥じたり悔いたりするの…

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フリーライター

にしかわ・あつこ 1967年生まれ。鎌倉市出身。上智大学外国語学部卒業。編集プロダクションなどを経て、2001年から執筆活動。雑誌、ウエブ媒体などで、働き方や人事・組織の問題、経営学などをテーマに取材を続ける。著書に「ワーキングうつ」「みんなでひとり暮らし 大人のためのシェアハウス案内」(ダイヤモンド社)など。