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「一生飲み続けないとだめ?」糖尿病と薬の関係

矢部大介・岐阜大学糖尿病・内分泌代謝内科学教授
 
 

 「いったん飲みはじめたら、一生続けないといけないんですよね」。健康的な食事と運動をがんばっても、治療目標が達成できない方に、糖尿病の薬をすすめる際、しばしば受ける質問です。実際のところ、どうなのでしょうか。薬の効果と、副作用などのリスクをお話ししながら、答えていきたいと思います。

合併症を防ぐには

 糖尿病では、インスリンという物質が膵臓(すいぞう)から十分に分泌されないこと(インスリン分泌能低下)、もしくは分泌されていても効きが悪いこと(インスリン抵抗性)が原因で、食事から吸収した糖を筋肉等でエネルギー源として効率よくもちいることができず、血糖値が上昇します。

 糖尿病を放置して、血糖値の高い状態が続くと、さまざまな合併症が発症します(図参照)。「神経障害」「網膜症(目の病気)」「腎症」が3大合併症といわれ、「しめじ」などと呼ばれることもあります。重症化すると、人工透析や失明、足の切断に至り、生活の質を著しく低下させます。人工透析を受けることになる糖尿病の患者さんは、年約1万6000人(日本透析医学会の2019年末資料)とされ、視覚障害を生じる方や足の切断を余儀なくされる方も年約1600~1700人と少なくありません。また、心臓病や脳卒中などを発症して、生命に危機がおよぶこともあります。

 糖尿病を放置して血糖値が高い状態にある人が新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいことも、以前、紹介しました。しかし、健康的な食事と運動を実践しながら、必要に応じて薬物治療をうけることにより、合併症の発症や重症化は予防できます。

日本ではインスリン分泌促進薬を頻用

 糖尿病の治療薬には、インスリン注射に加えて、異なる特徴をもつ9種類の治療薬があり、糖尿病の病態(インスリン分泌能低下やインスリン抵抗性の状態)や合併症の状態、値段などを考慮して、医師と相談の上、適したものを選びます。

 日本人はもともと農耕民族で、仏教伝来以来、毎日の食事で脂質を摂取することが少なかったことも影響してか、インスリン分泌能がそれほど高くなくても、「インスリンが十分にはたらく体質」をつくりあげてきたと考えられてきました(図参照)。

 一方、白人は狩猟民族で、脂質の摂取が多いために体脂肪が多く、インスリン抵抗性が強いために、「インスリンをたくさん分泌できる体質」をつくりあげてきたと考えられています。

 このような背景から、日本人の糖尿病は、白人の糖尿病と比較して、太っていないのに、インスリン分泌能低下のため血糖値が上昇する場合が多く(図参照)、インスリン分泌を促進する治療薬が主に選ばれます。

 ひと昔前には、膵臓からのインスリン分泌を増やし血糖を下げる「SU薬(スルホニル尿素薬)」や「グリニド薬」が用いられることが多かったのですが、これらの薬は、血糖値が低いときにもインスリン分泌を促進してしまうため、低血糖を生じる可能性があります。低血糖の予防法や対処法を十分に理解して使用すれば、安価でよい薬といえます。

 しかし、高齢者では低血糖が重症化しやすいこともあり、最近は血糖値の高いときのみ、インスリン分泌を促進する「DPP-4阻害薬」が使用される機会が増えています。DPP-4阻害薬は、健康保険で3割負担の方の場合、1カ月の薬剤費は100…

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岐阜大学糖尿病・内分泌代謝内科学教授

やべ・だいすけ 1973年生まれ。98年京都大学医学部卒業、2003年テキサス大学大学院修了。関西電力病院糖尿病・内分泌・代謝センター部長、関西電力医学研究所副所長、京都大学医学研究科糖尿病・内分泌・栄養内科学特定准教授などを歴任し、18年から岐阜大学医学系研究科糖尿病・内分泌代謝内科学、膠原病・免疫内科学教授。岐阜大学病院では副病院長や医療情報部長、国際医療センター長を務める。 糖尿病や肥満症、栄養が専門。糖尿病や肥満症の予防、治療として注目される「食べる順番」や食習慣と薬物療法の関係性など、食事療法を中心に臨床研究を展開する。血糖値をコントロールするインスリンを分泌する膵ベータ細胞、インスリン分泌を促す「インクレチン」という物質の基礎研究にも従事。日本糖尿病協会の活動を通して、糖尿病の正しい知識の普及啓発や糖尿病教育・支援にたずさわる人材育成、糖尿病の重症化を防ぐ地域連携にも精力的に取り組む。