ジソウのお仕事

「苦しくなったら誰かに助けを求めてもいい、逃げ場所を見つけておこうよ」

青山さくら・児童相談支援専門職員
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 児童相談所(児相)で児童福祉司として働いてきた青山さくらさんによる連載「ジソウのお仕事」。今回登場するのは、児相に保護を求めてきた高校2年生のKさんです。「帰りたくない」と訴える彼女の複雑な家庭関係とは――。

自ら児相への保護を求めた高校2年生

 高校2年生のKさん(女性)が突然、「私を保護してください」と児童相談所を訪ねてきた。

 「母親からいじわるをされる、食事も食べさせてもらえない、うちには帰りたくない」

 そう話すKさんを相談室に入れて落ち着かせ、一時保護中は登校できなくなること、携帯電話の使用が制限されることなどについて説明してから、もう一度意向を確認した。

 それでもKさんは「帰りたくない」と言うので、「当事者が保護を求めている」のだから「母からのネグレクト」を主訴に一時保護することになった。

 保護所でKさんと面接し、「(母からの)いじわるってなに?」と担当になった児童福祉司のGさん(女性)が尋ねると、「参考書をわざと捨てたり、私が飲んでる便秘の薬を隠したり」と答えた。Kさんと20代のGさんが話していると、明るい悩みを打ち明け合っている同級生に見え、深刻さが感じられず見ていてつい笑ってしまう。

 「もうやだあっ」と、KさんはGさんの肩を小突いてみたり、ニコニコしてGさんもKさんに“お返し”したりしてじゃれあっている。GさんもKさんとの関係の糸口をつくろうと必死のようだったが、それでは一向に面接が進まないので、私が割って入ってKさんから話を聞くことになった。

 有名塾の大事な模擬試験が行われるという朝、Kさんは「我慢できず逃げてきた」のだと言う。「もうあんな母とは暮らしたくありません」と話した後で、「保護所のごはんはおいしくない」「集団生活は苦手だから個室にしてほしい」「携帯が使えないなんて人権無視」「高校にも通えないなんて、こんなところ一日も早く出たいです」と口をとがらせて不満を吐露した。

 Kさんは、「偏差値が高い」とされる公立高校で、「上の中」くらいの成績なのだという。「もっと頑張って父と同じ大学の経済学部に入らなきゃいけないのに、そんな私のつらさを母はぜんぜん分かろうとしないんです」と、母を責めてばかりなので父のことを尋ねると「父は、うーん、忙しい人です」とだけしか言わなかった。

 Kさんの父は、有名な上場企業に勤めていて、渡された名刺にはカタカナの役職がついていた。父との面接には担当のGさんと、児相の非常勤弁護士が同席した。父は開口一番「親としてはなにも協力できませんよ、あの子は自分の意思で勝手に家を出て行ったんだから」と、…

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青山さくら

児童相談支援専門職員

「青山さくら」はペンネーム。複数の児童相談所で児童福祉司として勤務した後退職し、現在は自治体などで子ども虐待関連の仕事をしている。「ジソウのお仕事」は隔月刊誌「くらしと教育をつなぐWe」(フェミックス)で2009年4月から連載。過去の連載の一部に、川松亮・明星大学常勤教授の解説を加えた「ジソウのお仕事―50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所」(フェミックス)を20年1月刊行。【データ改訂版】を2021年3月に発行した。絵・中畝治子