ジソウのお仕事

「すごくおいしい」 その一言でなぜ母は号泣したのか

青山さくら・児童相談支援専門職員
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 児童福祉司の青山さくらさんが、児童相談所(児相)や子ども・子育て支援の日常とそこで働く人の思いをつづる連載「ジソウのお仕事」。今回は、夕食作りの支援を受けるシングルマザーが登場します。

ネグレクト予防のための夕食作り支援

 週1回、A町の子ども家庭係のケースワーカー(以下、CWと略)が交代で、小学4年生の男の子のいるひとり親世帯を家庭訪問して夕食を作っている。お母さんは30代。最近、近隣の市から転居してきた。A町の養育困難家庭へのヘルパー派遣は、子どもが小学3年生までとなっているため、サービスを受けられないこの家庭へCWがごはんを作りに出かけているのだ。

 お母さんは食事作りが苦手、というかできないらしい。肉や魚は気持ち悪くて触れない。鶏が産み落とした卵は不潔。野菜は虫がついているかもしれないからコワイ。ある日、子どもにチャーハンを作ろうとしてパニックになり、子どもを置いたまま家を飛び出して、駅前のマンガ喫茶で夜中までマンガを読んでいた。

 子どもが泣いていると近所の人が110番し、警察が臨場して男の子を保護。男の子は児童相談所に連れて行かれ、一時保護所に入った。明け方に帰ってきたお母さんが、男の子がいないことにびっくりして交番に飛んで行き、説明を受けたお母さんは男の子が無事だったことを喜んで、おまわりさんに何度も頭を下げたという。児相は、男の子をお母さんのもとに返し、ネグレクトケースとして、地域で支援してほしいと子ども家庭係に依頼してきたのだった。

 お母さんは裕福な家庭で何不自由なく育ったらしい。幼稚園から大学まで「お嬢様学校」に通い、卒業してからは毎日、読書と散歩。働いたことがない。お母さんの母(男の子の祖母)は、娘を愛玩動物のようにかわいがり、先回りしてすべてのことを整えた。極端な過保護は、お母さんに何らかの発達のゆがみをもたらすことになったのかもしれない。

 お母さんは20代半ばで、ネットで知り合った男性と次々に付き合い、妊娠。男の子を出産して、…

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青山さくら

児童相談支援専門職員

「青山さくら」はペンネーム。複数の児童相談所で児童福祉司として勤務した後退職し、現在は自治体などで子ども虐待関連の仕事をしている。「ジソウのお仕事」は隔月刊誌「くらしと教育をつなぐWe」(フェミックス)で2009年4月から連載。過去の連載の一部に、川松亮・明星大学常勤教授の解説を加えた「ジソウのお仕事―50の物語(ショートストーリー)で考える子ども虐待と児童相談所」(フェミックス)を20年1月刊行。【データ改訂版】を2021年3月に発行した。絵・中畝治子