
新型コロナウイルスの感染「第7波」が拡大する中、7月14日に開かれた新型コロナウイルス感染症対策分科会で尾身茂会長はエアロゾル感染(空気感染)に触れ、「効率的な換気」の重要性を提言した。コロナウイルスの感染経路を巡っては、昨夏、国内の専門家有志38人が接触感染や飛沫(ひまつ)感染を重視してきた従来の感染対策を批判し、「エアロゾル感染が主たる感染経路」とする緊急声明を発表した経緯がある。提言は有志の問題提起に応じたように見える。感染経路を踏まえた新型コロナ対策はどうあるべきなのか。議論の経過をたどった。
当初WHOも空気感染に否定的
2019年末に中国で新型コロナウイルスの感染拡大が問題になった当初、世界保健機関(WHO)は「主として呼吸性飛沫と接触経路によって伝播(でんぱ)する」と説明し、空気感染に否定的だった。政府もこうした知見に基づき、20年2月の専門家会議で「感染経路は飛沫感染と接触感染」と説明した。国内の感染対策も飛沫と接触による感染との想定から、アルコール消毒や手洗い、アクリル板の設置が推奨されてきた。
感染における飛沫とは、せきやくしゃみ、会話、呼吸などの際に鼻や口から放出される水分を含んだ粒子を指す。これらの粒子は比較的大きく重いため、放出されて数秒で落下する。また落下した粒子を触った手指が粘膜に触れて起こるのが接触感染だ。一方、鼻や口から出た比較的小さな粒子や水分が蒸発した粒子は軽いため、数分から数時間空中に漂う。これらはエアロゾルと呼ばれ、やはり感染の媒介となる。
緊急声明を出したメンバーの一人、東北大の本堂毅准教授(物理学)は「エアロゾルは吐き出したたばこの煙のように近いほど濃く漂い、長時間感染リスクがある。これは世界中の論文で報告されており、新型コロナがエアロゾルで感染することは世界のコンセンサスだ」と強調する。
WHOも米疾病対策センター(CDC)もその後の知見の蓄積に伴い、見解を変更した。CDCは20年10月、飛沫感染に加え、エアロゾルでも感染の恐れがあるとし、指針を変更。WHOも昨年春、感染経路にエアロゾル感染と飛沫感染を挙げ、接触感染は起きにくいとする見解を示した。
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