漢方ことはじめ

細胞の「乗っ取り屋」と「三禁湯」

津田篤太郎・NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長
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浦田慎主幹研究員が見守る中、DNAを取り出す実験をする子供たち=金沢市寺中町の金沢海みらい図書館で2020年10月25日、阿部弘賢撮影
浦田慎主幹研究員が見守る中、DNAを取り出す実験をする子供たち=金沢市寺中町の金沢海みらい図書館で2020年10月25日、阿部弘賢撮影

 高校の生物の授業で「セントラル・ドグマ」という学説を習ったことを覚えていらっしゃるでしょうか。

 日本語で「中心教義」と訳されることもあるので、バイオサイエンスに関わる方以外だと、最近ニュースになっている新興宗教を連想されるかもしれませんね。この「セントラル・ドグマ」は、全く宗教とは関係のない、分子生物学の用語です。

 人体は皮膚や血管、内臓など組織から成り立っていますが、組織を顕微鏡などでさらに細かく見ていくと細胞と呼ばれる最小単位の集合体であることが分かります。細胞の一つ一つには、「核」と呼ばれる部分があり、核の中には「生命の設計図」であるDNAがしまい込まれています。

 小さな小さな、顕微鏡でしか見えない細胞の中の、さらに小さな区画に「生命の設計図」がそろっているというのは、不思議な気がしませんか? 普通に考えたら、自身の細胞を作るのに必要な設計図だけがあれば用が足りそうなものを、明日にはあかとなって剥がれ落ちる皮膚の細胞の中にさえ、神経の細胞や筋肉の細胞など全身のあらゆる細胞の設計図が一通り入っているのです。

 もはや「設計図」というより、「図書館」と呼ぶにふさわしいDNAですが、個々の細胞はそのデータをすべて活用するわけではありません。必要な時に設計図をメモに書きうつし、「核」の外に運び出してさまざまな生理活性物質や、自分自身の細胞の部品となるたんぱく質を合成するのです。このメモに当たるのが「RNA」と言われる物質です。

 DNAは長い長いテープのような形状をしており、莫大(ばくだい)な情報量を記録しているのに対し、RNAは短いテープの断片です。こうして、「DNA→RNA→たんぱく質」の順番に「情報」が、生命を支える「実体」となっていくことを「セントラル・ドグマ」と呼んでいるのです。

 わざわざ「ドグマ(教義)」などという単語を使っているのは、たんぱく質がRNAの情報を書き換えたり、RNAがDNAの情報を変化させたりしない、つまり、矢印には逆向きはなく、「上意下達」が絶対であることを強く打ち出している学説であるからでしょう。「セントラル・ドグマ」はDNAやRNAが発見されてその機能が明らかにされた1950年代の学説ですが、その後、ウイルスを研究する中で「ドグマ」にも例外があることが分かってきました。

 ウイルスの粒子は…

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津田篤太郎

NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長

1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、聖路加国際病院Immuno-Rheumatology Centerを経て、現在、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。