舞台でのより良いパフォーマンスを医療者が支援する――。「舞台医学」と呼ばれる取り組みが動き始めた。6月に高崎芸術劇場(群馬県高崎市)で開かれた新国立劇場バレエ団の公演では、医師と看護師が会場内に待機して、出演者のけがなどに対応した。日本で初めて舞台医学を提唱した武藤芳照・東京大名誉教授は「スポーツへの医学支援が欠かせなくなっているように、ステージにかかわる人たちの健康管理に医療者が協力することは重要です」と話す。実践の場から、舞台医学の可能性を探った。【永山悦子】
けがと隣り合わせのダンサー
オーケストラの練習の音や、ダンサーたちのレッスンのかけ声が響く中、長野県東御市民病院の岩橋輝明院長ら医療者たちが劇場の舞台裏に集まった。「ここの舞台は、硬めらしい。けがにつながらなければいいのですが」。岩橋さんは、レッスンの様子を映し出すモニターを見つめながら言った。
この日の作品は「不思議の国のアリス」。キャスト、スタッフら総勢200人以上がかかわる大作だ。セットも大がかりで、高所からの転落もあり得る。そもそもバレエダンサーは、極限まで肉体を使い、跳躍や回転をしながら踊り、相手を持ち上げるような振り付けもあるため、けがと隣り合わせだ。
新国立劇場の伊東信行・チーフプロデューサーによると、2年前にダンサーがけがをし、そのまま舞台に立つかどうかが議論になった。従来はダンサー自身の判断に任せることが多かったが、専門的な判断や支援が欠かせないことに気付いたという。地方公演では、けがなどが発生したときに病院探しから始める必要があり、慌てることも少なくなかった。
そのころ舞台芸術監督に就任したのが、英ロイヤルバレエ団で長くプリンシパルを務めた吉田都さんだ。海外のバレエ団の手厚いサポート体制を知る吉田さんも、体制強化の必要性を感じていたという。
そこで、…
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