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「自信は優越感だった」甲子園で自チームの負けを願った元球児の告白

渡部達也・NPO法人ゆめ・まち・ねっと代表
第104回全国高校野球選手権大会で優勝した選手があいさつに向かい盛り上がる仙台育英のアルプス席=阪神甲子園球場で2022年8月22日、津村豊和撮影
第104回全国高校野球選手権大会で優勝した選手があいさつに向かい盛り上がる仙台育英のアルプス席=阪神甲子園球場で2022年8月22日、津村豊和撮影

 今年の夏の甲子園大会は仙台育英(宮城)が東北勢として初制覇し、優勝旗が「白河の関」を越えたと話題になりました。一方、高校野球をめぐるさまざまな不祥事も後を絶ちません。静岡県富士市で子どもたちの居場所づくりに取り組むNPO法人「ゆめ・まち・ねっと」の渡部達也さんは、東京・秋葉原で2008年に起きた無差別殺傷事件の元死刑囚が残した言葉から、「不祥事を起こす高校球児と秋葉原通り魔事件の元死刑囚の根っこは同じように見える」と指摘します。子どもたちが大会で1位になったり、レギュラーで活躍したりして得た自信は、本当の意味での自信なのでしょうか。渡部さんが問いかけます。

甲子園で自チームが負けることを願った若者

 「僕、甲子園のアルプス席で、自分のチームが負けることばかりを願っていました」

 今から7年ほど前、講演を終えると、一人の若者が僕のところに寄ってきてこう切り出し、話を続けました。

 「だから、今日の渡部さんの話、とてもよくわかりましたし、本当にそうだったなと実感しています」

 「甲子園のアルプス席ってことは、強豪校の野球部員だったんだね?」

 「はい、○○高校です」

 プロ野球選手を数多く輩出している甲子園常連校の名を若者は口にしました。

 「名門中の名門だね。部員はどのくらいいたの?」

 「3年生のときは、90人でしたね」

 「その中でレギュラーは9人、ベンチ入りは18人」

 「そうなんです。5人に1人しか選ばれませんから、試合ではいつもチームメートのミスを願ってました。誰かが三振してくれれば、『次、田中(仮名)、代打でいけ』って言ってもらえるかも。誰かがエラーをしてくれれば、『田中、代わりに守備につけ』って言ってもらえるかもって」

 「でも、結局、チームは甲子園出場を果たしたけど、田中くんは補欠にもなれず、外野席でメガホン持って応援……」

 「そうなんです。だから、早く負けてくれって」

 「もう、チームメートがミスをしても、試合には出られないのに?」

 「はい。あそこで野球をやってるやつらは、甲子園に出たという結果で、有名大学の野球部に進学できますよね。でも、僕らはその道が断たれましたから、一日でも早く、地元に戻って、受験勉強したいなと。決勝になんか行っちゃったら、2週間も潰れちゃいますから」

 僕が「なるほどねぇ」と相づちを打つと、若者はさらに過去の自分を語りました。

 「渡部さんが講演で言ってた、優越感と表裏一体の劣等感。選手になれそうにないってわかってからは、劣等感の塊(かたまり)でしたね」

 「○○高校の野球部に入るんだから、中学生の時は相当、うまかったよね?」

 「はい。小学生から中学生にかけては、地域の中で、自分が一番うまいって自信がありました。でも、今日のお話で、『あ、自分が持っていたのは、自信じゃなくて、優越感だったんだ』って、すごく自覚しました」

 「○○高校に入ったら、上には上がゴロゴロいたんだね?」

 「そうなんです。全国各地からその地域でナンバーワンの中学生が入ってくるんですよね。自分よりうまいやつがいくらでもいて。それで、自信をなくしました。本当は、自信をなくしたんじゃなくて、…

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NPO法人ゆめ・まち・ねっと代表

わたなべ・たつや 1965年静岡県三島市生まれ。茨城大卒。88年静岡県庁入庁。児童相談所ケースワーカーや大規模公園「富士山こどもの国」の設立・運営、国体および全国障害者スポーツ大会の広報などに携わる。「まちづくり」という夢を追い求め、2004年に16年余り勤めた県庁を退職。同県富士市に移住し、同年秋、妻・美樹と共にNPO法人「ゆめ・まち・ねっと」を設立。空き店舗を活用した放課後の居場所「おもしろ荘」や地元の公園と川で自由な遊びを楽しむ「冒険遊び場たごっこパーク」、「0円こども食堂」などの開催を通じて、子どもの遊び場づくり・若者の居場所づくりに取り組む。里親として虐待を受けた子どもの社会的養育にもかかわっている。愛媛県松前町が創設し「義農精神」(利他の精神)を体現する活動に取り組む個人・団体を表彰する第1回「義農大賞」など受賞多数。 著書に「子どもたちへのまなざし-心情を想像し合い 積み重ねてきた日常 切れ目のない関係性-」(エイデル研究所)。