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「友達と食事してきました」 コロナ療養中の認知症独居老人が発した思わぬ言葉

工藤千秋・くどうちあき脳神経外科クリニック院長

 新型コロナウイルスの感染状況は改善してきましたが、私たちはまだコロナと付き合っていく必要があると思われます。たとえ感染の「第7波」が収まったとしても、冬にはインフルエンザとの同時流行も懸念されていて、コロナへの備えを怠るわけにはいきません。そこで今回は、私が経験した、認知症と言ってもいい高齢者のあるケースをご紹介します。1人暮らしのこうした方がコロナに感染した場合の問題について、みなさんと一緒に考えたいと思います。

家の中に入るとそこは……

 8月上旬、私のところに地区の保健所から一本の電話が入りました。

保健所「1人暮らしの老人ですが、コロナと診断され、熱があるので、往診に行ってもらえませんか」

 保健所の話によると、この老人は、東京・城南のハイソな地区に住む80代後半の女性とのこと。近所の医療機関で検査して、コロナ陽性と判定されたといいます。

 さっそく、私はこの女性に往診を告げる電話を入れました。すると、女性はこう返してきたのです。

 女性「わざわざありがとうございます。(自宅の場所が)分からないといけないので、先生をお迎えに行きます」

 コロナに感染して発熱したばかり。体内のウイルス量も多いはずで、たとえマスクをしていたとしても、他の人に感染させるリスクは少なくありません。

 私「とにかく外に出ないでください」

 こう注意を促しつつ、女性宅へと急ぎました。

 そのやりとりをした時からおかしいと思ったのですが、女性は私を迎え入れるため街角まで出てきていたのです。

 女性の自宅は戸建ての建物でしたが、庭には草が生い茂り、木は今にも倒れそうな…

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くどうちあき脳神経外科クリニック院長

くどう・ちあき 1958年長野県下諏訪町生まれ。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センターなどで脳神経外科を学ぶ。89年、東京労災病院脳神経外科に勤務。同科副部長を務める。01年、東京都大田区に「くどうちあき脳神経外科クリニック」を開院。脳神経外科専門医であるとともに、認知症、高次脳機能障害、パーキンソン病、痛みの治療に情熱を傾け、心に迫る医療を施すことを信条とする。 漢方薬処方にも精通し、日本アロマセラピー学会認定医でもある。著書に「エビデンスに基づく認知症 補完療法へのアプローチ」(ぱーそん書房)、「サプリが命を躍動させるとき あきらめない!その頭痛とかくれ貧血」(文芸社)、「脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング」(サンマーク出版)など。