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老いを恐れる人ほど短命に? 「ジェロントフォビア」の罠

西川敦子・フリーライター
 
 

 加齢を怖がる人ほど老化が加速しやすく、寿命も短くなる――。こんなショッキングな研究結果があることをご存じでしょうか。それには、ある「偏見」が関係しているといいます。

若返り願望に潜む落とし穴

 若々しくありたいという思いは、シニア世代共通の願いだろう。だが、過剰に老化を気にしていると意外な落とし穴にはまるリスクもある。

 「じつは若い頃から老いを恐れている人ほど短命であることが、国内外の研究からわかっています」

 こう話すのは、日本学術振興会特別研究員(神戸大学所属)の竹内真純さんだ。

 米エール大学公衆衛生大学院のベッカ・R・レビー教授らの研究によれば、老化に対してネガティブな感情を持つ高齢者は、血圧や心拍数が上がったり、急性心筋梗塞(こうそく)からの回復率が低下したりすることなどがわかっている。

 メンタル面でもストレスや孤独を感じやすくなり、記憶力をつかさどる海馬が縮小して認知症リスクも高まるそうだ。さらに、病気からの回復が遅れやすい。その結果、寿命が短くなってしまうという。

 では、老いを恐れる人々がかえって老化を加速させてしまうのは、いったいなぜなのだろう。

 「性差別や人種差別と違い、高齢者に対する差別や偏見は、年をかさねると“自分事”になってしまうからでは」と竹内さん。

 「能力が低くなる」「忘れっぽくなる」「性的な能力や魅力が失われる」「孤独で不幸になる」「人生において最悪の年代だ」。人々が抱きがちな高齢期に対する偏見は、若い頃であれば対岸の火事だ。

 だが年をとれば、偏見はそっくり自分自身に向けられることになる。そうなれば人生に対する満足度は低下し、自信も失われる。恐れや不安は年齢をかさねるほど募るはずだ。慢性的なストレスから健康が損なわれてしまうのもうなずける。

 老いに対する恐れや嫌悪を「ジェロントフォビア(Gerontophobia)」と呼ぶが、まさに、老後の健康と幸せを阻む“心の悪玉菌”といえるだろう。

 実際、老いに対して前向きな人はそうでない人に比べ、平均で7.5年ほど寿命が長いことが、同じくレビー教授らの研究でわかっている。それだけではない。入浴や歩行といった生活機能が低下するスピードも遅く、重度の障害から回復する人の割合が高いことも明らかとなった。

ジェロントフォビアを生み出す二つのわな

 ジェロントフォビアを抱く人々は、周囲や自分に対するゆがんだ認知の“わな”にハマっているといえる。第一に注意したいのは…

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フリーライター

にしかわ・あつこ 1967年生まれ。鎌倉市出身。上智大学外国語学部卒業。編集プロダクションなどを経て、2001年から執筆活動。雑誌、ウエブ媒体などで、働き方や人事・組織の問題、経営学などをテーマに取材を続ける。著書に「ワーキングうつ」「みんなでひとり暮らし 大人のためのシェアハウス案内」(ダイヤモンド社)など。