
今年の冬はインフルエンザが流行する可能性が高いといわれ、新型コロナウイルス感染症との同時流行への懸念が高まっています。新型コロナ対策に取り組む中で、新型コロナ以外の感染症は抑えられてきましたが、今年はすでに手足口病などが過去最高レベルで流行し、インフルエンザも例外ではないと考えられているからです。10月からインフルエンザのワクチン接種が始まりますが、ワクチンの効果はどのくらい期待できるのでしょうか。電話やLINE(ライン)で小児科医に相談ができるサービス「小児科オンライン」の白井沙良子医師が解説します。
今年こそインフルエンザ流行の見込み
日本では新型コロナウイルスが流行し始めた2020年以後、ほとんどインフルエンザウイルスが検出されたという報告がありませんでした。ただし、今年(22年)の冬は、インフルエンザが流行する可能性が高いことが危惧されており、日本感染症学会などが注意を呼びかけています。
その根拠の一つは、すでに南半球でインフルエンザが流行していることです。北半球の冬の流行を予想するには、先に冬季を迎える南半球での感染状況が参考になります。実際にオーストラリアにおいて、今年4月以降、過去5年間の平均を超えるインフルエンザの流行が見られています。特に20歳未満の感染報告率が高いことも気になります。
なお、オーストラリアだけではなく、欧米や中国でもインフルエンザ、特にA香港型の流行が多く見られます。A香港型はインフルエンザによる死亡や入院を増加させるといわれているため、警戒が必要です。
また社会全体において、インフルエンザに対する免疫が低下していることも予想されます。過去2年以上、新型コロナ対策でマスク着用や手指消毒が広く行われてきました。20年初期にはあらゆる感染症の患者数が抑制されていましたが、21年にはRSウイルス感染症、22年は手足口病、ヘルパンギーナ、ヒトメタニューモウイルスなどが過去最高レベルで流行しています。あらゆるウイルスの抗体価が社会全体で低下した反動で、こうしたさまざまなウイルスが流行し始めており、インフルエンザも例外ではないと考えられます。
実際に日本でも今年6月、およそ2年ぶりに、東京都の一部地域でインフルエンザによる学年閉鎖が発生しました。季節外れの流行にも注意が必要です。
インフルエンザワクチンは「生後6カ月」から接種可能
インフルエンザワクチンには、4種類(A型2種類、B型2種類)が含まれています。前述した、欧米などで流行が見られているA香港型も、これに含まれます。
世界保健機関(WHO)や日本ワクチン学会は「生後6カ月以上」のすべての人に、インフルエンザワクチンの接種を推奨しています。「生後6カ月~5歳未満」のお子さんや妊娠中の方は、特に接種が推奨されています。
接種を始める時期は、10月末~11月が望ましいです。接種してから2週間後~5カ月くらいは予防効果が期待できるのと、例年であれば12月~翌年3月に流行が見られる、というのが理由です。
また、接種回数は、原則として生後6カ月~13歳未満は2回(1回目と2回目は2~4週間空ける)、13歳以上は1回となっています。万が一、さまざまな事情により1回のみの接種となってしまった場合でも、効果はゼロではありません。1回目接種後のA型インフルエンザに対する抗体価の上昇率は、6カ月以上3歳未満のお子さんで約37%、3歳以上のお子さんでは約75%です。なお2回目接種後はそれぞれ約87%、約82%と上昇します。
このような結果から、実はWHOや米国のワクチン接種諮問委員会(US-ACIP)は、9歳以上であれば1回接種でも問題ないという見解を示しています。ただし日本では、2回接種したほうが抗体価が上がる確率も高いことから、厚生労働省や日本小児科学会の見解に沿って、13歳未満であれば2回接種を勧める場合がほとんどです。
新型コロナワクチンとの同時接種も可能に
また妊娠中の方も「特にインフルエンザ…
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小児科医/小児科オンライン所属医師
しらい・さよこ 小児科専門医。「小児科オンライン」所属医師。IPHI妊婦と子どもの睡眠コンサルタント(IPHI=International Parenting & Health Insutitute、育児に関するさまざまな資格を認定する米国の民間機関)。慶応大学医学部卒。東京都内のクリニックで感染症やアレルギーの外来診療をはじめ、乳幼児健診や予防接種を担当。2児の母としての経験を生かし、育児相談にも携わる。***小児科オンラインは、オンラインで小児科医に相談ができる事業です。姉妹サービスの「産婦人科オンライン」とともに、自治体や企業への導入を進めています。イオンの子育てアプリより無料で利用できます。詳細はこちら。