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「睡眠の質」を高める三つのキーワード

米井嘉一・同志社大学教授

 睡眠は体の健康を保つために重要な役割を持っています。ヒトは皆、6~8時間、人生の3分の1近く、眠っています。この貴重な時間をベストチューンアップして、健康長寿を目指しましょう。キーワードは、ホルモン、体温、音環境の三つです。

 加齢にともなって、寝つきが悪くなる(入眠障害)▽夜中に目が覚める(中途覚醒)▽朝早く起きてしまう(早朝覚醒)――の症状が表れます。これは「睡眠の質」が低下した状態です。原因としてもっとも多いのは、寝具が自分に合っていない場合です。寝具が合わないようならば、自分に合う寝具に変えましょう。その上で、「睡眠の質」をチューンアップすれば、より効果的です。

睡眠関連ホルモンのチューンアップ

 「睡眠の質」の制御には、メラトニン、オレキシン、コルチゾルの三つのホルモンが役割を果たしています。これらのホルモンの特性を知り、最適な状態にチューンアップすることが大切です。

 メラトニンは夜間の睡眠の支配者です。昼間の血中濃度は低く保たれていますが、体内時計の指令をうけて夕刻から上がり始めて、入眠前には高値を示します。私のメラトニン研究の師匠は、東京医科歯科大学の服部淳彦博士です。

 体内時計とは別に、目の網膜が光を検知するとメラトニン分泌が停止する機構があります。メラトニンのチューンアップ法は、部屋を真っ暗にして眠る(アイマスクも可)ことです。寝る前にスマートフォンを見たりすると、寝つきが悪くなり、睡眠の質が保てなくなります。朝に光を浴びると、体内時計がリセットされるので、お勧めです。メラトニンの材料はトリプトファンというアミノ酸で、肉に多く含まれます。いくつになっても肉を食べることは、元気の秘訣(ひけつ)なのです。

 昼間の覚醒の支配者であるオレキシンは、体内時計の指令を受けて、明け方から血中濃度が上がりはじめ、体を覚醒させます。昼間のオレキシン血中濃度は高く保たれ、集中力を高め、基礎代謝が上がり、仕事の効率が高まります。オレキシンというホルモンは筑波大学の柳沢正史博士のグループにより1996年に発見されました(論文発表は98年)。今年のノーベル医学生理学賞の注目候補の一人です…

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同志社大学教授

よねい・よしかず 1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。