漢方ことはじめ フォロー

日々の診療に「役立つ」研究と「役立たない」研究

津田篤太郎・NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長
 
 

 医学は日々進歩し、次々に新しい病気の概念や治療法が登場します。漢方が専門だからといって、追いつく努力を怠ると、あっという間に「浦島太郎」状態となり、他の医療関係者とのコミュニケーションすらおぼつかなくなってしまうかもしれません。患者さんに質の高い医療を提供するには、専門領域の異なる医師や、看護や介護にかかわるスタッフたちとうまく連携していくことが大切なのです。

 最新の知識を仕入れる方法の一つは、論文の「輪読会」への参加です。以前勤めていた病院では上司が輪読会の司会を担当し、当番の医師が海外の医学雑誌から自分の興味を引いた論文を一つセレクトして、参加者に内容を紹介するという形式で行われていました。

 輪読会によく取り上げられる論文は、権威ある雑誌に掲載され、他の医学研究者に盛んに話題になり、他の論文にも引用回数の多いものですが、司会の上司は時々「こんなものは臨床の役に立たない」とバッサリ辛辣(しんらつ)なコメントを付けることがありました。

 私たちが論文を読むときにしばしば「批判的吟味を忘れるな」と注意されます。論文を読んで内容をそのままうのみにして単に従う、のではなく、この研究では何が明らかにされ、何が明らかになっていないのか、この研究をもとにどういうことは言ってよく、どういうことは言えないのか、それをよく考えるのが重要なのです。そういうステップを経て初めて論文の成果が私たちの生きた知識になっていきます。

 そういうわけで、上司の放つ辛辣(しんらつ)な評価は、論文を違った視点から眺めるきっかけになるので、とても勉強になります。私自身、ハッとさせられたことが何度もありました。

 最近目にしたネットの記事で、あぁ、これはあの上司なら「臨床の役に立たない」とバッサリだろうな……と思った研究を目にしました。厳密には医学の研究とは言えないものかもしれませんが、医師以外の方にもわかりやすい話題なので、ここで紹介してみたいと思います。

 研究は9月14日に理化学研究所から発表された「赤ちゃんのあやし方」に関する科学論文です。

 赤ちゃんが泣きやまない時に①抱っこして歩く②抱っこして座る③ベビーカーに乗せて動かす④ベッドに寝かせる――の四つを試…

この記事は有料記事です。

残り1561文字(全文2486文字)

NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長

1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、聖路加国際病院Immuno-Rheumatology Centerを経て、現在、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。