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「玄関に張り紙」の効果なく…鍵をかけ忘れてしまう女性は認知症が進んだのか

ペホス・認知症ケアアドバイザー
 
 

 認知症の診断を受けた88歳の女性。医師の勧めでデイサービスに通うことになりましたが、家を出る時に自宅の鍵をかけ忘れてしまいます。同居する娘は、母親が鍵をかけ忘れることがないよう、玄関のドアに「鍵をかけて出ること」という張り紙をしました。ところが、女性は翌日もまた、鍵をかけ忘れたままデイサービスに行ってしまいます。認知症の進行を疑う娘から相談を受けた担当ケアマネジャーは、女性に自宅を出るまでの一連の動きを再現してもらいました。そこで見えてきたこととは――。認知症ケアアドバイザーのペホスさんが「大切なことを学んだ」と語る、あるケースを紹介します。

二つの認知症の診断を受けたAさん

 Aさん(88歳・女性)は、住宅街にたたずむマンションで娘夫婦と同居していました。もともとは娘夫婦の近くで暮らしていたのですが、1人暮らしが徐々に心配になってきた娘さんからの提案で、一緒に暮らすことになりました。

 Aさんは極度の難聴があり、かなり大きな声で耳元で話しかけないと会話が成り立たないことがありました。ただ、耳元で語りかけても、いまひとつ会話がチグハグになることがあったため、かかりつけの医師に認知症の可能性がないかどうか調べてもらうことになりました。すると、年齢相応の脳の萎縮のほかに、小さな脳梗塞(こうそく)の痕跡が多数みられたため、医師に「脳血管性認知症および軽度のアルツハイマー型認知症」と診断されました。

 医師からは「難聴のために会話が聞こえなくて、家に閉じこもりがちになると、認知症の進行が心配されます。そうならないようにデイサービスに行くなど、外出の機会をつくってくださいね」と助言されたので、要介護認定を受けたところ、要介護1と認定されました。

デイサービスを利用することに

 Aさんは、ほかにもあおむけで寝られないくらいの極度の円背(えんぱい=猫背)がありました。シルバーカーを使わないと外出できないため、日中は家でテレビを見て過ごすことが多く、外出する時は必ず娘夫婦が付き添っていました。

 そして、医師から勧められていたデイサービスを利用するために、ケアマネジャーに相談し、体験利用に申し込みました。

 体験利用をした結果、Aさんは「隣の人の話が聞こえないことがあるけど、職員さんが会話の橋渡しをしてくれるから楽しかった」「通ってみようかな」と前向きな感想を述べたので、本格的に利用することになりました。

浮かび上がった新たな問題

 デイサービス自体はとても楽しみにしていて、休むことなく通っていました。…

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認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら