パイプオルガンの生演奏の中、新型コロナウイルスのワクチン接種が進むソールズベリー大聖堂=英南部ソールズベリーで2021年3月27日、横山三加子撮影
パイプオルガンの生演奏の中、新型コロナウイルスのワクチン接種が進むソールズベリー大聖堂=英南部ソールズベリーで2021年3月27日、横山三加子撮影

 日本にはさまざまな技能を持つ職人さんがいらっしゃいます。

 ある時、パイプオルガン製作で世界的に有名な日本人についての、とても興味深い記事を目にしました。

 パイプオルガンはもともとキリスト教の宗教音楽では中心的な役割を担う楽器で、本場はヨーロッパです。私が記事で見た職人さんも、渡欧して専門的な教育を受け、「マイスター」として認定されて現在、日本で活躍されています。国内はもちろんのこと、西欧諸国から注文が次々に入るほどに、その名声が広まっているのだそうです。

 なぜ彼のパイプオルガンは高く評価されているのでしょうか。

 オルガンのパイプ部分は鉛や錫(すず)の合金でできています。正確な長さの美しい円柱を並べていけば楽器の用としては足りるわけです。ところが、古い時代のオルガンにはパイプに微量の不純物が混ざっていることを知ったこのマイスターは、わざわざ不純物を混ぜてパイプを作ります。ヨーロッパの「名器」と言われる古い教会のオルガンの材質から構造に至るまで徹底的に研究し尽くし、忠実に再現しているのです。

 マイスターの作品は、機械化されていない古い時代の手間のかかる方法で金属を加工するため、表面が円滑ではない、ややいびつなパイプに仕上がります。しかし、工業製品として作られた楽器とは異なった、年輪を重ね伝統を感じさせる音色を響かせます。

 現代の技術を使えば、手軽に音程が正確で音色も一定した規格通りの楽器を何台も生み出せます。なのに、不純物が混ざった材質でパイプにランダムに凹凸が入るので二つとして同じ楽器を作れない、いわば「不安定な」製法による楽器の方が人気を集める、というのはなんとも不思議な気がしますね。生身の人間の耳には、そういった楽器の音が、温かく懐かしく響くのでしょう。

 私はこの職人さんの話から、「インドジャボク」という生薬を連想しました。インドジャボクはその名の通り南アジア原産の低木です。今のように血圧を下げる有効な薬が全く無かったころ、…

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NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長

1976年京都生まれ。京都大学医学部卒。北里大学大学院修了(専攻は東洋医学)。東京女子医大付属膠原病リウマチ痛風センター、JR東京総合病院、聖路加国際病院Immuno-Rheumatology Centerを経て、現在、NTT東日本関東病院リウマチ膠原病科部長。福島県立医科大学非常勤講師。著書に「未来の漢方」(森まゆみと共著、亜紀書房)、「漢方水先案内 医学の東へ」(医学書院)、「ほの暗い永久から出でて 生と死を巡る対話」(上橋菜穂子との共著、文藝春秋)など。訳書に「閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス"が挑む! 」(D.キーオン著、須田万勢らと共訳)がある。