
体を動かすだけで、脳をいきいきとさせ、若返らせることができる?!――。こう主張するスウェーデン出身の精神科医、アンデシュ・ハンセンさんの「運動脳」(サンマーク出版)が本国でベストセラーとなり、日本でも注目を集めています。まるで夢のようですが、これはエビデンス(科学的根拠)に裏打ちされた本当の話なのです。そこで今回はみなさんに、意外と思われるかもしれない「脳と運動」との関係について伝えたいと思います。
ウオーキングで脳の働きが改善
先月、東京都内のある大型書店に立ち寄ったところ、「歩く、走る… 有酸素運動で脳は変わる」という大型ポスターを見かけました。「運動脳」とあり、積んであった本を手にしてみると、脳にとって最高のエクササイズは、「身体を動かすこと」と書かれているではないですか。
著者のハンセンさんはスウェーデン・ストックホルム出身の精神科医で、これまでも「スマホ脳」というタイトルの本を世に出し、日本でも大きな話題となった方です。気になって1冊購入し、読んでみたところ、そこには脳科学の最新事情が詰まっていました。
ハンセンさんも著書の最初に取り上げているのですが、私も印象に残ったのは、ケージで飼育されているマウスのうち、走るとくるくる回る「回し車」をこいだマウスの脳の老化が遅いという点です。
研究者がこのことを実証するため、60歳の被験者を、一つは週に数回の頻度でウオーキングを1年続けるグループに、もう一つは同じ頻度で心拍数が増えない程度の軽い運動を続けるグループに分けて追跡調査しました。すると、ウオーキングをしたグループの方が、健康になっただけでなく、脳の働きが改善したというのです。
さらに、脳の活動具合が分かる磁気共鳴画像化装置(MRI)で調べると、言語や記憶をつかさどる側頭葉と、知能や人格、理性などをつかさどる前頭葉が、視覚に重要な働きをする後頭葉と側頭葉とが、それぞれ連携を強めたといいます。
コロナ外出自粛で脳機能が低下
これを読んだ時、国立長寿医療研究センターが5年ほど前に発表した研究を思い出しました。
具体的には、…
この記事は有料記事です。
残り2146文字(全文3023文字)
くどうちあき脳神経外科クリニック院長
くどう・ちあき 1958年長野県下諏訪町生まれ。英国バーミンガム大学、労働福祉事業団東京労災病院脳神経外科、鹿児島市立病院脳疾患救命救急センターなどで脳神経外科を学ぶ。89年、東京労災病院脳神経外科に勤務。同科副部長を務める。01年、東京都大田区に「くどうちあき脳神経外科クリニック」を開院。脳神経外科専門医であるとともに、認知症、高次脳機能障害、パーキンソン病、痛みの治療に情熱を傾け、心に迫る医療を施すことを信条とする。 漢方薬処方にも精通し、日本アロマセラピー学会認定医でもある。著書に「エビデンスに基づく認知症 補完療法へのアプローチ」(ぱーそん書房)、「サプリが命を躍動させるとき あきらめない!その頭痛とかくれ貧血」(文芸社)、「脳神経外科医が教える病気にならない神経クリーニング」(サンマーク出版)など。