
けがが治った後も長引く腰痛や肩の痛み、さまざまな検査をしても見つからない体の各所の痛み――。「慢性痛」の患者数は約2300万人、成人の22.5%と推定されます。長年、治療の手立てがないと言われてきましたが、近年、研究が進み、効果的な治療法が明らかになってきました。慢性痛の研究、治療に取り組む、奈良学園大学保健医療学部教授で、千里山病院集学的痛みセンター(大阪府豊中市)で治療にあたる柴田政彦医師に話を聞きました。
慢性痛は「気のせい」ではない
従来、痛みはそのメカニズムにより、二つに分類されていました。一つは、けがなどにより傷ついたり炎症が起きたりして周囲の痛覚神経が刺激され、脳に伝わって感じる痛み。もう一つは、手術や事故、脳梗塞(こうそく)や帯状疱疹(ほうしん)などで神経そのものが傷ついたり、圧迫されたりして感じる痛みです。
どちらの痛みも多くの場合、傷や神経の障害が回復するとともによくなりますが、一部に痛みが持続したり、いったんよくなっても、また痛みが起こることを繰り返したりする患者さんがいます。こうした痛みは、慢性痛や慢性疼痛(とうつう)などと呼ばれていますが、原因ははっきりせず、「気のせい」や「心の問題」などと言われてきました。
しかし近年、脳科学の進歩により、そのメカニズムが徐々に解明されてきました。「慢性痛は、痛みに関わる神経回路に何らかの変調が起こり、脳が痛みに対して過敏に反応することが原因であることがわかってきたのです。このため、『第3の痛み』『痛覚変調性疼痛』と呼ばれるようになってきています」と柴田医師は説明します。
慢性痛の患者さんの脳機能画像では、「側坐核(そくざかく)」の血流低下や、「へんとう体」の過活動がみられます。側坐核は「やる気」など意欲にかかわる役割を担い、へんとう体は痛みや不安、恐怖、悲しみなどの情動をつかさどっています。
「まだ研究段階ではあるものの、慢性痛の患者さんの脳は痛みのとらえ方に特徴があるのは確実。その要因として、『痛みに対する不安』があることもわかっています」
痛みに敏感なのは悪いこと?
痛みは危険から体を守る「アラーム」のようなものだと、柴田医師は言います。
「けがをしたら痛いので、体を休ませます。命にかかわるような傷があるのに、痛みを感じなければ、死んでしまうかもしれません。つまり、…
この記事は有料記事です。
残り1664文字(全文2646文字)