理由を探る認知症ケア フォロー

お風呂場から出ようとしない男性 訴えた「あれ、あれ」の正体

ペホス・認知症ケアアドバイザー
 
 

 脳梗塞(こうそく)の後遺症で失語症などの症状が表れ、介護老人保健施設(老健)でリハビリを続けることになった男性(80)。職員の介助を受けながら入浴し、お風呂場を出ようとした時、なぜか男性はその場を動こうとせず、職員がお風呂場から出るよう促すと怒ってしまいました。同時に「あれ、あれ」という言葉を発し、何かを伝えようとしています。男性がお風呂場から出たがらないのはなぜでしょうか。そして「あれ、あれ」の「あれ」とは――。認知症ケアアドバイザーのペホスさんが解き明かします。

言葉を失ったYさん

 Yさん(80歳・男性)は、生まれ育った街で大工として働き、家庭を築いて2人の息子さんを育て上げました。ある日、自宅で妻と過ごしていた時に、突然ろれつが回らなくなり、救急搬送されました。脳梗塞と診断され、入院することになりました。

 Yさんは後遺症として、右半身まひ、失語症、脳血管性認知症が表れ、これらの症状と付き合うことになりました。息子さんに話を聞くと、「右利きだった父にとって、利き手を左手に変えなければならないことも大変だったようですが、それよりも言いたいことが相手に伝えられないことのほうが、つらいように見えます」と心情を話してくれました。

 Yさんはリハビリ病院でリハビリに励み、左手でスプーンを使ってご飯を食べられるようになってきました。しかし、まだ言葉や歩行の訓練が必要と判断され、老健に入所してリハビリを続けることになりました。

なぜかお風呂場から出たがらない

 職員は当初、車イスでお風呂に入る介助をしていましたが、Yさんは介助があればつえをついて歩けるようになってきたため、お風呂場に入る時も歩行介助に切り替えることになりました。

 ところが、車イスで介助していた時には見られなかったことが起きました。お風呂場に入って体を洗い、湯船につかって出てくるところまでは何の問題もなかったのですが、…

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認知症ケアアドバイザー

ペ・ホス(裵鎬洙) 1973年生まれ、兵庫県在住。大学卒業後、訪問入浴サービスを手がける民間会社に入社。その後、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリ、訪問介護、介護老人保健施設などで相談業務に従事。コミュニケーショントレーニングネットワーク(CTN)にて、コーチングやコミュニケーションの各種トレーニングに参加し、かかわる人の内面の「あり方」が、“人”や“場”に与える影響の大きさを実感。それらの経験を元に現在、「認知症ケアアドバイザー」「メンタルコーチ」「研修講師」として、介護に携わるさまざまな立場の人に、知識や技術だけでなく「あり方」の大切さの発見を促す研修やコーチングセッションを提供している。著書に「理由を探る認知症ケア 関わり方が180度変わる本」。介護福祉士、介護支援専門員、主任介護支援専門員。ミカタプラス代表。→→→個別の相談をご希望の方はこちら