
「そろそろ脳がさびついてきたのかな……」と不安になることはありませんか。そんな人に注目してほしいのが、脳の若返りが期待できる「メタ認知(metacognition)」です。「大人の学び直しや仕事力アップなど、さまざまなシーンに活用できます」。東北大学加齢医学研究所教授で、これまで16万人の脳画像を見てきた脳医学者の瀧靖之さんに話を聞きました。
大人の学びに効く「メタ認知」とは
人生100年時代を迎えるにあたり、大人の学び直しへの関心が高まっている。一方で「若い頃と違って上達が遅い」「物覚えが悪い」といった中高年ならではの焦りもあるようだ。
「脳医学の研究によれば、脳の健康を保つ秘訣(ひけつ)は知的好奇心をめいっぱい発揮して熱中すること。大人世代こそ好きなことを見つけ、どんどん学んでほしい」。その際、「メタ認知」を活用すると効果的だと瀧さんはアドバイスする。
メタ認知とは、米国の発達心理学者、ジョン・フラベルらが1970年代に定義した能力。自分や他人の行動や感情、考えを俯瞰(ふかん)的に、客観的に判断する力を指す。
顧客の前でプレゼンしている最中や、夫婦げんかが勃発しようとしているその瞬間、頭に浮かんだ“もう一人の自分”をイメージしてみてほしい。
“その人物”に自分や周囲の状況を客観的にあるがままとらえてもらい、「いつになく緊張してない?」「今、奥さんの一言にカチンときたよね」など実況中継させるのだ。そのうえでどうすべきか指示を出してもらう。「まずは深呼吸して落ち着け」「もっとゆっくり簡潔に話そうよ」といった具合だ。
自分や周囲の状況を冷静に観察すれば、混乱せず問題と向き合える。適切な対処行動もとれるだろう。弱点が明らかになるので目標も達成しやすくなる。
「そもそもなぜメタ認知が必要になるかといえば、脳のキャパシティーに限界があるからです」と瀧さん。脳の重量は体重のわずか約2%だが、消費エネルギーは体全体のおよそ20%。それだけ普段は猛スピードでいろいろな情報を処理しているということだ。
大忙しの脳はすべての物事についていちいち熟考し、判断を下すことができない。そこでふだんは感情や思い込みに頼って判断し、省エネモードを保とうとするのだ。もちろん感情や思い込みにとらわれ、狭い視野で物事を見ていれば、壁につきあたってしまう。仕事や勉強、習い事も同様だ。
久々に英語の勉強を始めたが、英単語を何回書き写しても覚えられない……といった経験はないだろうか。そこで、「覚えられないのは努力が足りないからだ」とさらに書く回数を増やして頑張ってしまうのは、若い頃の根性論が染みついているせいかもしれない。
がむしゃらに書き続けて覚えられればいいが、…
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